「ふるさと納税」は、拡充するほど日本のためになる | 知財業界で仕事スル

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知財業界の片隅で特許事務所経営を担当する弁理士のブログ。

最近は、仕事に直結することをあまり書かなくなってしまいました。

本人は、関連していると思って書いている場合がほとんどなんですが…

私は、米国在住なので「ふるさと納税」にはそもそも関係ないのだが、逆に、「寄付」が様々な方面で盛んにおこなわれる国(米国)に住んでいるからこそ見える切り口があるように思うので書いてみる。

 

[有料会員限定]記事なので引用は最小限にするつもりであるが…

 

ご当地アイドルが返礼品? 岐路に立つふるさと納税

日本経済新聞 2018/3/30

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28797510Q8A330C1000000/?n_cid=NMAIL006

ご当地アイドルの出張パフォーマンスにカブトムシ、プラモデル――。ふるさと納税の返礼品といえば、高級肉や魚の干物、旬のフルーツ、銘柄米などを思い浮かべがちだが、「なぜコレにしたの?」との疑問がわく品物やサービスを扱う自治体もある。総務省は「制度の趣旨に沿った良識のある対応」を各自治体に求めており、返礼品を区域内で生産されたものやサービスに限るよう4月1日付で通知する予定。風変わりな返礼品の謎と今後の行方を調べた。 

…が最初のパラグラフとなっているこの記事であげられた「風変わりな返礼品」は以下の通り。

 

  1. 群馬のアイドル「あかぎ団」が出張

前橋市は、30万円以上を寄付すると「ご当地アイドル“あかぎ団”の出張パフォーマンス」を返礼品としてくれる。“あかぎ団”は「全国的にまだメジャーじゃないのかな」というようなことで、寄付の申し込みはあまりないらしい。…それはそれでいいじゃないかと思う。

 

  1. 地元演歌歌手のCD

山形県米沢市は地元演歌歌手のCDを寄付金1万以上の返礼品として用意。江戸時代の米沢藩主、上杉鷹山の有名な言葉が歌詞に盛り込まれていてPR効果を期待しているそうだが、寄付はあまり集まっていないらしい。…それはそれでいいじゃないかと思う。

 

  1. メキシコ産テキーラ

千葉県御宿町が2万円以上の返礼品として用意している。採用の理由は、16099月にフィリピンからメキシコに向け出航したスペインの交易船が御宿町沖で沈没したときに、漂着者を御宿の人々が助けた史実に基づく。相当に無理がある関係づけだし、寄付もたいして集まっていないらしい。…それでもいいじゃないか!

 

  1. アジア最大 コーカサスオオカブト

香川県東かがわ市が、1万円~5万円台の寄付の返礼品として、日本外に生息する巨大な甲虫をくれる。東かがわ市と何の関係があるのかと言えば、プレゼントされる虫に関して、繁殖自体は地元の事業者が行っている、ということらしい。香川名物のうどんの材料となる小麦粉だって輸入しているのだし、これも問題ないのではないだろうか。というか、ふるさと納税の返礼品としての是非はともかく、これは私もとても欲しい(笑)。

 

  1. 装甲騎兵ボトムズのプラモデル

東京都稲城市が、1万5000円以上の寄付の返礼品として、アニメ「装甲騎兵ボトムズ」のプラモデルを用意している。同作品のや「機動戦士ガンダム」のメカニックデザインを担当した著名デザイナーが稲城市出身だからということ。…それで、何にも問題ないじゃないか!

 

  1. 日高屋の冷凍ギョーザ

埼玉県日高市は、外食チェーン日高屋の冷凍ギョーザを1万円以上の寄付の返礼品として用意している。日高屋の経営者が日高市出身という理由だそうだ。ただし、ギョーザを生産する工場は埼玉県行田市にある。…それでかまわんでしょ!

 

 

私は、上記記事の論調には批判的にならざるを得ない。

 

少しでも多くの「ふるさと納税」を得るために、地方自治体が知恵を絞る。そこに対して、国民一人一人が自らの頭で考え決断して「ふるさと納税」をする。ここに、選挙権以外の、いや、選挙権以上と言ってもよいかもしれない、民主主義の姿があると思う。少なくとも、少しでも多くの税収を得るために公務員が知恵を絞り、少しでも少なく納税するために国民が知恵を絞る状況よりは、ずっとマシだ。

 

総務省の「ふるさと納税ポータルサイト」によると

http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/furusato/policy/

ふるさと納税には三つの大きな意義があります。

第一に、納税者が寄附先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなる制度であること。

それは、税に対する意識が高まり、納税の大切さを自分ごととしてとらえる貴重な機会になります。

第二に、生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域に、これから応援したい地域へも力になれる制度であること。

それは、人を育て、自然を守る、地方の環境を育む支援になります。

第三に、自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進むこと。

それは、選んでもらうに相応しい、地域のあり方をあらためて考えるきっかけへとつながります。

 

ここからも明らかなように、総務省のコントロールは最小限に抑えられなければならない。ふるさと納税が活発になり、「ふるさと納税」のシステムが旧来の様々な“交付先”にも適用されるようになっていくようなことにでもなれば、公務員は利権をその分だけ失うことになるので気が進まないかもしれないが。

 

 

なぜ米国民の多くが寄付をしたがるのか?自分が好きな対象、自分が応援したい組織に対して、自分があげたい額を自分で決めて渡せるからである。もちろん、その寄付した額が、税額から控除されるというのも大きな理由ではある。しかし、それだけなら日米に違いはない。日米で大きく異なるのは、「国民が国にお金を渡し、公務員がその使い道を決める」という税制度経由で、“自分で稼いだお金”を使うのではなく、自分が使い道を自主的に決められるという点に価値を見出すか否かの点だ。

 

ふるさと納税は、基本的に、地方自治体への「寄付」である。このふるさと納税のシステムは、“自分で稼いだお金”を他人(公務員)任せで使うのではなく自分が使い道を自主的に決められるという「価値」を、日本国民に気づかせたと思う。

 

日本国の民度は、公共部門でのお金の使い方に関しても、自主的な判断にもっともっと委ねて大丈夫なように高まってきたのではないだろうか。どの地方自治体を応援したいのか、どの地方自治体に自分が稼いだお金のどれだけを寄付したいのかを、国民一人一人が自主的に判断して、今のふるさと納税システムが動いている。

 

その仕組みは、自治体だけに限らず、その他の領域にも拡大してよいと思う。民主主義の健全なる発展を日本国にもたらすためには、議員の投票権だけでは足りない。

 

このふるさと納税のシステムや精神を、たとえば、大学に適用したらどうだろうか?自分が応援したい大学に“個人交付金”を寄付することができるようにするとか。その他にも、国・地方自治体が様々な分野において「交付金」を渡しているが、この元はもちろん税金だ。その税金を少し減らし、国民一人一人が自らの頭を使った自らの判断で、自らの嗜好や思考や指向に基づいて個人的に「交付金」を渡せるようにしたらどうだろうか。

 

自然に、多くの国民から支持が得られる組織にはお金があつまって活動が活発になり、支持が得られない組織は活動が不活発となっていく。組織は、国民から選んでもらうにふさわしい姿になっていこうと自主努力をする。世の中が複雑になればなるほど、そして国全体の民度が高まれば高まるほど、極少数の国民(たとえば官僚と言われるような人々)だけで中央集権的に適切な判断をすることが困難になっていく。

 

このふるさと納税システムの成功をきっかけに、日本でも「寄付」(お役人様に決めてもらうのではなく、個人個人が自分で誰にどれだけあげるかを考える)の精神が発展していくことを期待したい。