知財保護のバランス感覚 | 知財業界で仕事スル

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知財業界の片隅で特許事務所経営を担当する弁理士のブログ。

最近は、仕事に直結することをあまり書かなくなってしまいました。

本人は、関連していると思って書いている場合がほとんどなんですが…

いつでもどこでも知財の保護が強ければよい、ということではない。強力な保護が逆に発展を阻害することもある。そこのバランスを考えて、あえて特許出願をしなかったり、取得した特許を公開してしまうようなことが行われることがある。

著作権の場合には、登録行為無しに排他的権利が発生するので、創作物と創作者は創作行為に伴って自動的に著作権法による保護を世界的に受けてしまうことになる。保護を望む望まないに関わらずだ。著作権による保護を望まなくても、積極的に創作者が保護を受けない方向に動かなければ、著作権が創作者を保護してしまうのだ。

そんな中で、ディズニーのようなところは、著作権による保護が強ければ強い方が好ましく、政治的圧力をかけて著作権の保護期間を延長するような法改正まで“強要”してしまう。逆に、著作権の力を弱めることを目指す政党(海賊党)がヨーロッパを中心に躍進していたりする。

そして、著作権者の中には、個人的に、著作権の保護を弱める方向で自らの権利を捨てる人もいるようだ。


漫画家『佐藤秀峰』にきく「前例なき大ヒット漫画の二次使用フリー化に挑む理由」
ガジェット通信 2012.09.12
http://getnews.jp/archives/250681?utm_source=twitterfeed&utm_medium=twitter

>漫画家の佐藤秀峰氏が…(中略)…大ヒット漫画「ブラックジャックによろしく」を「二次使用フリー」にするそうだ。
>サイトからダウンロードしたものをコピーしても友達にばら撒いてもよし、改変したり二次創作を行うもよし、さらにはそれらを販売して勝手に儲けてもいいらしい。



これが、どのような意味をもってくるのだろうか?上記記事にある佐藤さんの意見はこうだ…


>「著作権で収入を得る、という今のやり方は、もう時代に合わなくなってきているんじゃないかな、というのは肌で感じています。著作権でお金を得るビジネスモデルとは別の方法を試していかないと」


このように言う佐藤さんであるが、著作権保護反対派というような人ではないようだ。むしろ、著作権のことをよく勉強されており、その重要性もわかっておられる、芸術家の中では少数派と言ってよいような人のようだ。それは、当該記事に書かれていることだが、自らの作品(漫画)のドラマ化に際して講談社を提訴した歴史からも容易に理解できるだろう。


>「報道や、同業者の人たちからの話を総合すると、著作権の運用を厳格化する方向の話ばかり見聞きするので、それとは逆を試してみたらどうかという発想ですね」

>「(著作権の)放棄はしません。行使しないだけです。著作権ビジネスそのものが古いんじゃないかと思う。かといって、今すぐに別の方法を試すにはまだ時間も準備も必要で。だから、今は二次使用をまずフリーにして様子をみてみたい。現状、違法ダウンロードを厳罰化してみたり、作家やその周辺にいる出版社は、自分の権利を守ることで一生懸命ですよね。でも、多くの場合それがビジネスにはなっていない訳で、そのビジネスモデルは無駄じゃないかと思う。そもそも、書籍データのダウンロードなんか煩雑でめんどくさいだけですよ。常にハードディスクの空き容量を気にしたり、端末を買い替える度にデータの移行で時間を使ったり、ダウンロードってダサいです(笑)。だからその内だれもやらなくなるんじゃないかと思う。YouTubeみたいにストリーミングで好きな本を検索して読むようになるんじゃないですかね? 今でも検索すれば、無料で読めるものがいっぱい転がってるんだから、お金をとる意味はなくなっていくんじゃないかな。漫画もそうなって行くと思う。もっと別の方法を模索しないと」



佐藤さんは、著作権と真剣に向き合う芸術家といってよいだろう。彼がなりたいのは著作権の亡者でもなく、著作権を否定する者でもない。彼が求めるのは、著作権を使った新しいビジネスモデルとなる“別の方法”だ。

芸術家でも生活するのには収入が必要だ。その現実に正面から向き合う佐藤さんの姿勢はすばらしいと思う。「経営」センスのある芸術家ということになるのだろうか。すばらしい。


さて、この佐藤さんの新たな試みが何を生み出すのだろう?佐藤さんにどのようなメリットをもたらすのだろう?
興味は尽きない…