問題集から長文消 著作権のため | 知財業界で仕事スル

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知財業界の片隅で特許事務所経営を担当する弁理士のブログ。

最近は、仕事に直結することをあまり書かなくなってしまいました。

本人は、関連していると思って書いている場合がほとんどなんですが…

http://sankei.jp.msn.com/life/education/080525/edc0805252155001-n1.htm
問題集から長文が消える 著作権で引用できず
(産経ニュース2008年5月26日)

「大学入試の過去問題集などで、国語の長文読解問題の一部が掲載されない異例の事態が起きている。評論などを執筆した作家から著作権の許諾が取れていないためだ。教育業界では「教育目的」という大義名分のもとで無許諾転載が慣例化していたが、著作権保護意識の高まりから、大手予備校や出版社などが相次いで提訴されており、引用を自粛する傾向も目立ち始めている。」

…とのこと。
私は、無許諾転載の慣例化が問題かもしれないけれども、それよりこのような転載が許されない著作権法、あるいはその運用の方が問題と思う。大学入試で試験問題用に行ったコピーが合法なのであれば、その試験問題をコピーして過去問題集を作る行為に著作権が及ばなくても、特に著作権者に不利益は無いと思う。

さらに、同記事によると、
「教育委員会や学校に配られる国語の解説書では、作家の文章を引用した問題文がいずれも省略された。解説書を編集する国立教育政策研究所では「営利目的ではないとはいえ、行政府が著作権法に違反するわけにはいかない」と話している」
とのこと。
あまりに杓子定規すぎやしないだろうか?

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我々の業界に近い話としては、
http://www31.ocn.ne.jp/~jucccopyright/trial/trial-2001-1.html
2001年5月16日のパソコンソフトの違法コピー事件(東京地裁)が有名だ。これは、大手ソフトメーカー3社が、自社ソフトが違法にコピーされ著作権を侵害されたとして、東京リーガルマインド(LEC)を訴えたことをうけ、LECに損害賠償金の支払を命じた判決。

これを機会に、日本での著作権意識が一挙に進んだと感じるのは私だけではないと思う。

著作権意識が高まるのは一般によいことだと思う。知財の活用によって経済成長を目指そうとする日本にとってそれは重要なことだろう。

しかし、何事も行き過ぎはいけない。

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著作権法の法目的は、「…文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与する」ことにある(第1条)。

保護を図るのも重要だが、それと同程度に公正な利用も重要だ。それらのバランスがとれてはじめて「文化の発展に寄与する」結果が生まれる。
大学入試の過去問題集での利用は「公正な利用」の範囲内と考えてよいのではないか?教育委員会や学校に配られる国語の解説書での問題文の引用も「公正な利用」の範囲内と考えてよいのではないか?

著作権法の日本での運用が、保護一辺倒の時代から、保護と利用のバランスを考える時代へと変わっていかなければいけない時期に来ているように思う。