富士急ハイランドのメインアトラクション、ジェットコースター「ド・ドドンパ」が2021年8月12日より「安全点検のため当面の間、運休」と発表(実際は12日の13時まで運行し、その後運休に)。

 

その1週間後の8月20日、「2020年12月~2021年8月の間、4名がド・ドドンパ乗車後に骨折等の重傷になっており、富士急ハイランドはその報告を行っていなかった(後述)。翌日21日より国土交通省の立ち入り調査が行われる。」と報道されました。

 

 

アトラクション乗車後に4名も骨折という重傷者を出した、しかも富士急ハイランドはその報告義務を怠っていた(※ただし、それは致し方ない理由もある。後述)という、前代未聞の不祥事ですが、Yahooニュースやツイッター等のコメント・反応を見ると、

・「骨折した人は(骨が弱くなった)老人だったのでは?」

・「客の乗車姿勢が悪かったから骨折したはず。」

実際、ニュースにて「頭を後ろにつけるように呼び掛けているが、一部の乗客は前傾姿勢だった」と報じられると、

・「悪いのは乗車姿勢を守らなかった客で、富士急は悪くない。」

など、短絡的なコメントが多く、正直驚いています。

 

 

この問題の本質は、

・乗車姿勢を軽度に(頭をヘッドレストにつける程度に)守らなかっただけで「骨折」という重大事故が起きてしまう、乗り物自体の欠陥さ。

 

・重傷者(全治見込み30日以上)が出たら管理元の国土交通省に報告するという”法律で義務付けられている”報告をしなかったという、行政からの信頼を損なう失態を犯した。

※ただし、骨折を含む打ち身による負傷は後から自覚をする事が多いため、どうしても被害者の自覚、報告が遅れ、結果的に行政に届け出がしない・遅れる事に繋がってしまうというケースも考えられる。ただし、報道では「報告が必要という認識は無かった」とあるので、それ以前の問題かもしれませんが。

以上は遊園地運営に当然の如く義務付けられている”安全管理”です。確かに科学的には客が乗車姿勢を守らなかったから起こった事故であり、富士急ハイランドは悪くないのかもしれません。しかし、だからと言って重傷者が出た事が発覚した時点で何の改善(乗車姿勢徹底の呼び掛けや、機械改修など)もしないで運行を続けていい理由にはならないですし、何より報告”義務”を果たさなかった。それは富士急ハイランド側の怠惰と断言できます。

個人的には、それ以前に後述のよう、アトラクション・ジェットコースターの許容範囲を超えた振動がある機種を平然と運行しているのもどうかと思います…。「ド・ドドンパ」だけでなく、「ええじゃないか」も近年は振動が激しく、腰を痛めたなど体へのダメージがあったという報告も多いです。

 

◯今後の「ド・ドドンパ」について

前述のよう、国土交通省(国交省)の立ち入り調査が入った事、また国交省より「必要な安全対策・再発防止策が施されるまでは運転休止を求める」と言及されているため、運転再開には報告書を作成→国交省の許可の流れとなり、運転再開には当分の時間(数年単位)かかると思われます(報告書の作成だけで通常1年はかかる)。

 

それ以前に、8ヶ月で4人も骨折の重傷者を出した、どんな理由があったにせよ結果的に報告を怠った事で国交省の信用を失った事から、国交省から許可を貰えるのはかなりハードルが高いと思われます。再開が困難と判断され「ド・ドドンパ」が営業終了してしまう可能性は十分あります。

 

それどころか、富士急ハイランド他のコースターや絶叫マシンも安全基準の要請が厳しくなる→コストの問題から運行できない→閉園の可能性だってある。そこまでいかなくても来年2022年夏開業予定の新コースターが白紙になるのは十分あり得ます。今回の事故は、それ程の重大案件なのです。

 

 

こう言うと自分が富士急ハイランドの敵みたいに思える人もいるでしょうが、自分だってド・ドドンパが無くなって欲しくないですし、富士急ハイランド全体も好きです。でも、今回の件は「お客は乗車姿勢を守れ!」、「アナウンスを強化すれば大丈夫」だけじゃ済まされない、簡単な問題ではないのです。富士急ハイランドには、誠意ある対応を望みます。

 

 

〇その他
・報道等では最初の加速時の衝撃・振動が注目されていますが、実際はそれよりも直線後のカーブ→ループ突入時の方が振動が激しい。乗った事ある人は分かると思いますが、ガクガクと全体が振られるような振動がその間ずっと続き、乗り心地は決して褒められたものではないものになっています。

・発射時のカウントダウンがずれるのが、不意打ちによる乗車姿勢の乱れ、怪我に繋がるのではないかという指摘もあります。(3、2、1、のカウントの後すぐにではなく、数秒間があって発射されることが多い。2で突然発射されることもある。)

これはド・ドドンパ発射の仕組みに起因するもので、その時の気候や乗客含む車両の重さで発射に必要な空気圧力をその都度計算し、その空気圧力が溜まった瞬間に発射!となる、つまり人間側で発射のタイミングをコントロールできないため、起こりうる事になっています。

 

〇その後の動向
事故を受け、富士急ハイランドは2021年9月頃より大型コースターを含めて全てのアトラクションの総点検を順次実施、点検に合わせて各アトラクションの注意事項換気がかなり分かりやすく、そして厳しくなり、乗車姿勢だけでなく「ポニーテール禁止」など髪型の制限まで付加された事が、良くも悪くも話題になりました。
富士急ハイランドが安全対策を強化 「高飛車」はポニーテール・ピアス禁止

しかし、その後も負傷の報告・相談は相次ぎ、11月22日には「ド・ドドンパ」とは別の機種に乗車後に骨折する事案があったと報道。
富士急ハイランド 「ド・ドドンパ」とは別の遊具でも女性2人骨折

11月24日には、「大観覧車」にてゴンドラの扉が開いたまま乗車させてしまう事故が発生し、同園の安全管理体制がまたしても問われる事態となりました。
富士急の観覧車、施錠忘れた場合は警報鳴るが…扉全開は「想定外」で鳴らず

そして12月1日には、山梨県知事が「負傷の原因などが特定できていないまま運行を続けている。来庁しての説明を求めたが、応じず、不誠実な対応だ」として、主力コースターの運行停止を要請するまさかの展開。
富士急ハイランドの主力コースター、知事が停止要請

これに対して富士急ハイランドは、(上記11月22日の骨折事例については)「因果関係ない」、「電話・メールで説明したので来庁する義務はない」と、真っ向から対立する姿勢を見せるという、極めて異例の事態に。
富士急ハイランド社長「乗客のけが、因果関係ない」…県は運行停止求め行政指導


ネット上では、またしても富士急ハイランド側を擁護する短絡的なコメントに溢れていますが、遊園地のアトラクション(遊戯機)の設置・運営は建築基準法に基づき、行政(知事)の許可があってできるものなので、正論だとしても行政に歯向かう富士急ハイランドは、業界からするとちょっと信じられない対応をしていると感じます。

本案件は、「ド・ドドンパ」アトラクション1つの問題に収まらず、富士急ハイランドの存続自体をも揺るがす事態になりました。ここまで事態が悪化してしまうと、本気で富士急ハイランドの閉園や年単位の長期休園もおかしくは無くなっています。今後の動向に注目したいところです。

 

〇2024年3月13日「ド・ドドンパ」営業終了

休止から2年半以上経過した2024年3月、やはり再開はできず正式に営業終了が発表されました。

 

本件で富士急ハイランドは6億円の特別損失を計上し、解体作業等を行うそうです。

 

 

〇2024年6月28日 調査報告書がまとまる

 

簡潔に言えば、構造上の問題で共振が起き乗客への負荷に繋がった、つまりはほぼ完全にコースター側、パーク運営側の責任であると結論付けられています。別の記事では、開業2日後に起きた車輪パンク、逆走する事故の対策で車両を改造した事で、このような共振が発生する構造になってしまったとの記載があります。