『アイアンクロー』(ネタバレあり) | yoshi's drifting weblog -揺蕩記-

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私の一番好きな言葉、揺蕩(たゆた)う。……
日常の、ふとした何気ない出来事について、
その揺蕩う様を書き留めていきます。

キノシネマ新宿にて『アイアンクロー』を見てきましたよ。

 

 

 

 

隣町の浦和でも上映してるんですが時間が19時始まりの21時終わりとかで遅くなっちゃうの嫌だったので、新宿まで出向きお昼に見てきたんですが。

 

 

私の最寄駅・大宮から湘南新宿ライン(池袋・新宿・渋谷方面)に乗ったつもりが同じ形状の東京上野ライン(上野・東京・新橋方面)に乗ってしまい、新宿だと思ったら東京だったという衝撃が。

 

 

本読んでたから全然気づかなかった!

 

 

チケットはすでに取っちゃってるしどうしよう?!!ってなって、慌てて降りて調べて激走して、なんとか中央線快速に乗っかり、新宿に到着。

 

 

そこからさらにダッシュしてどうにか10分前に着席できましたよ。

 

 

ほんと、30分前に新宿に着けるように計算してて助かりましたよ。

 

 

さてお話。

 

 

アイアンクローで一世を風靡したフリッツ・フォン・エリックは息子たちにもプロレスラーとして名を馳せて欲しいと願い、厳しい指導のもと次男のケビン・三男のデビッド、四男のケリーの三人がタッグチャンピオンになり全盛期を迎える。そしていよいよ本丸であるNWAのヘビー級チャンピオンへの挑戦権を手に入れるが、父は次男のケビンではなく弟のデビッドに挑戦させることを決める。そんな中、ツアーに回っていたデビッドが日本で急死し、それをきっかけにして次々に不幸が訪れて、……といったほぼ実話の物語でございます。

 

 

80年代のプロレスのお話なので、私は生で味わった時代ではないんですが、プロレス界では有名な「呪われた一族」フォン・エリック家のお話。

 

 

三男のデビッドが内臓疾患で日本で急死、五男のマイクは試合中の脱臼から難病を発症して気に病み副毒自殺、四男のケリーはバイク事故で足を失い、どうにか復帰するもののプレッシャーに耐えかねて拳銃自殺、加えて長男のジュニアは幼少の頃に亡くなっていて、映画では割愛されましたが史実では六男も若くして亡くなってる。

 

 

六人兄弟のうち五人が夭折。

 

 

そんな不幸を唯一生き残ったケビンの視点で捉えたのがこの映画なんですが、まあプロレス映画、スポコン映画ではなく、非常に重々しく考えさせられる映画となっております。

 

 

父親の鉄の掟、その教えに必死に食らいつき従う息子たち、そのプレッシャー、重圧、のなんたるか。

 


プロレスの魅力でもあり、魔力でもあるわけですよね。

 

 

あんまり書きたくはないんですが、プロレスってスターシステムの上で成り立ってるんですよね。

 

 

なので、裏である程度の段取りは組まれてるわけです。

 

 

「ブック」とか「アングル」とかって言いますけど。

 

 

そうやって時には相手を持ち上げ、時には自分を持ち上げてもらい、お客さんたちの熱狂を勝ち取り、スターとして名を馳せ、団体の看板を背負っていくわけです。

 

 

だから、格闘技とは違うんです。

 

 

格闘技って、ワンパンチで決まっちゃうような緊張感を味わうものじゃないですか。

 

 

でもプロレスはワンパンチで決まっちゃダメなんですよ。

 

 

相手を持ち上げつつ自分を持ち上げていくためには我慢比べをしていかないといけない。

 

 

猪木の風車の理論で言えば「相手に9の力を出させて、10の力で勝つ」わけです。

 

 

そうすることで、相手の株も上がるし、株の上がった相手に勝った自分の株も上がる。

 

 

そうやって全体的に底上げをして団体を盛り上げ、ムーブメントを作ってお金を巻き上げるわけですよね。

 

 

興行だからお金稼ぐのが大事なのは当然。

 

 

 

 

 

……でも、そうやって相手に持ち上げてもらうために、こっちにも相手を持ち上げるための力があるということを示すために努力しないといけないし、お客さんからお金をもらうためのスター性を発揮するためにはそれができるという説得力がないといけない。

 

 

入団1年目のルーキーがいきなりトップ選手に勝っちゃう、……なんていう番狂せを起こしてスター選手を一気に作り上げる、みたいな構想は時としてあるかもしれませんが、でもそんな1年目の選手がいきなりヘビー級のチャンピオンに挑戦させろ!は出来ないわけです。

 

 

団体としてはそういう構想はできても、お客さんに対しての説得力がないですから。

 

 

でもそこに至るまでの努力、……筋トレであるとかマイクであるとかカリスマ性だとかオーラだとか、それらを磨き上げてきた力は「本物」「ガチ」なわけで、決して八百長ではない。

 

 

「プロレス=八百長」を括られるとプロレスファンが怒り出すのは、ここが理解されてないからなんです。

 

 

で、プロレスにおけるすごく大事なこの部分をしっかり描いてるのが本作『アイアンクロー』なんですね。

 

 

次男のケビン、演者のザック・エフロンがムッキムキに仕上げてますし、外見上は完璧な説得力を持ってるんですが、最初にNWAヘビー級チャンピオンへの挑戦権を貰ったのは兄貴をすっ飛ばして三男のデビッド。

 

 

それはデビッドが完璧なマイクパフォーマンスでお客さんの気持ちを煽りに煽って盛り上げ、ビジネス的にも奏功したから。

 

 

肉体と精神、……ある程度のお約束が決まってるとはいえスポーツであり格闘技でありますから、大事なのは肉体の方、故に優先させるのも肉体的な説得力を持ってる方、なんですが、精神的な説得力を持ったデビッドがビジネス的に優遇されてしまい、その結果、無理が祟って日本での急死に結実。

 

 

つまりこれ、人災なんですよ。

 

 

お父さんによる、息子への。

 

 

それが四男のケリーにも、五男のマイクにも、同じように起こっていく。

 

 

父と子の、鉄の掟、血、絆、……そういったものが縛り上げたものを描いてるわけなんですね。

 

 

まさに呪縛そのもの。

 

 

じゃあケビンはどうやってその呪縛から逃れたのかというと、間違いなくリリー・ジェームズ演じる奥さん・パムであり子どもたちとの絆であるわけです。

 

 

血の呪縛から逃れるのもまた血の結束であるという。

 

 

その、人としての業みたいなものが熱気を帯びて描かれてましたかね。

 

 

「ネイチャーボーイ」リック・フレアーがまた、悪そうなのなんの。

 

 

そんなこんなで『アイアンクロー』堪能いたしました。

 

 

去年見た『アントニオ猪木を探して』なんかよりもよっぽど面白いプロレス映画でございました。

 

 

さて次回。

 

 

『デデデデ』かなぁ。

 

 

原作だいぶ昔に読んだからそこそこ忘れちゃったけど、却って楽しめるかな?

 

 

ではでは。