箸の動かし方 | はげざるのブログ

箸の動かし方

青年の時に不思議な体験をしたことがあります。


故郷を出て東京の大学に通っていたときです。故郷の山形に帰省していました。お昼に寝転がって甲子園の高校野球を見てすごしていたりしたので、夏休みですね。

夜になると、田舎ですので家の周りは真っ暗です。田舎の夜の空は、都会と全く違い、墨のように黒くなります。遠くのかすかな音も聞こえて空気が澄みとおっています。家の中に人がいても、居間に電灯がついていても、寂しい気持ちがします。年老いた両親と、少年時代のときのように、一緒に夕飯を食べています。もう姉たちは、結婚し、実家にはいません。それも寂しい気持ちを強めます。

何気に、親が食事をしている所作を見ました。そのとき、なぜか、宇宙の果てかなんかとても遠くから、ここから切り離されたところから、眺めたような気持ちになりました。親は箸を動かしています。その動かし方は、なにかに支配されているようでした。一方、私も箸の使い方をなぜか習得しています。意識して教わったわけでもないのに、勉強したわけでもないのに、親の箸の使い方と自分の箸の使い方は共通しています。人と人とは、実は遠くに離れているのに、同じものをたくさん持っているんだ。箸の持ち方に限らず、共通なことは数えきれないくらいある、と思い至りました。



実は、私は、父親に反抗し、父が嫌いでした。そのため、都会の大学を選び、さっさと一人で暮らすことを選びました。人と人とは、それぞれ自分を主張して、しばしば人と対立します。人と異なることを意識します。いさかい、憎しみ、なども生まれます。でも、そういう異なるものって、実は共通するものに比べたら、氷山の一角にすぎないな。人と人とは、実はほとんどが共通じゃん。憎しみとか、対立意見なんて、どーでもいいくらい、共有の部分がはるかに大きい。



その時、人と人とは支えあっているということを、心底、感じました。