生命科学的思考 読書メモ | 鍼灸師 Shuhei Higashi 鍼灸師のブログ

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鍼灸師 鍼灸の勉強、言葉、英語学習など備忘録的に使用予定です。

著者は遺伝子や生命の仕組みについて研究する生命科学の「研究者」としての視点と遺伝子解析サービスを提供する会社の「経営者」の二つの視点から「個体として生き残り、種が繁栄するために行動する」マクロの目線と「人と人、人と社会の間の葛藤」のミクロの目線を軸に、生命の原理や原則を客観的に理解したうえで、それに抗うため主観的な意思を生かして行動することを提案する書籍です。

 

「博士号」を意味する”Ph.D.”は”Doctor of philosophy”(哲学博士)が語源となっており「世の中のことを考える人」という意味が含意されます。しかし、そもそも考えること(思考すること)は生物学的には多くのエネルギーを消費する行為であり、効率の悪い行為で必要のない場合は極力思考しないようにヒトは無意識的に選択します。遺伝子としてエネルギーを効率よく生きることが仕組まれている中で、それに抗い思考するとという非効率な行為が、次々と現れくる課題を解決していくのではないだろうか?

 

感情と遺伝子

感情もまた遺伝子によって組み込まれている側面があります。例えば他人に対し怒りを抱くのは自分の敵に対応するためであり、孤独感は集団で生活することで生き延びてきた人類が一人で生きることを避けるための機能です。不安を感じた時、それは遺伝子として生命の気機を察知したのだと捉えた上で、不安に対して何か行動ができるものか、不安に対して行動の起こせないものがあり後者には蓋をして考えず、前者へ対策を考え準備することが大切です。

 

進化の過程で生まれるもの

細胞が分裂するとき、それに先立ちDNAが二つにコピーされます。この過程でどうしてもコピーミスが生まれてしまいます。もしこのミスが細胞増殖に関わる遺伝子で起こり臓器の機能に支障をきたすほど成長するとガンとなります。この現象を進化の歴史から考えてみると、常に変化し続ける環境の中で生き残る方法として一定頻度でDNAが変化することで異なる遺伝子を作り変異種を発生させることで環境に適応する種の可能性を上げます。例えば蛍が発光するのは進化の過程でコピーミスの結果、発光する機能を持ったものだとわかっています。

遺伝子のコピーミスはがん細胞になることもあれば新しい進化のきっかけにもなり得るもので種の存続のために必要不可欠なものです。

 

課題と情熱

課題があるということは、現状よりもいい状況が頭の中にあるということです。現状に満足しておらず、今のままでは理想の状況に到達できない。そう考える人の「行動すべき理由」が「課題」であり、課題解消の速度を上げるものが「情熱」です。しかし、「情熱」をコントロールして湧きあがらせることは難しいです。人は、情熱があるからやる気が起こるのではなく、行動することで情熱が湧く生き物のため、面倒な時ほどあれこれ考えず始めてしまう方がよいです。

 

快楽と幸福

広辞苑によると快楽は「気持ちよく楽しいこと」、幸福は「心が満ち足りていること」とされています。快楽は身体的、本能的な満足感でドーパミンの放出のような一時的な生体反応によるものだと考えられます。幸福は過去から現在、未来の時間の中で形成されるものです。快楽と幸福の違いは、短期的なものであるか長期的な時間のなかで生まれるものかです。例えば、砂糖の摂取は一時的な快楽反応ですが、砂糖の摂取の制限という行動は健康的な体を維持し長期的な体の健康という幸福をもたらします。

 

「覚悟」は未来に対する「掟」

正解が存在しない中で何かを決断し行動するということは、常に「これでいいのか」という葛藤をはらみます。しかし中には全く葛藤を持たない人がいます。そのような人は、概して目指すものに対して覚悟を決めている人である。と著者は語ります。では、その覚悟とはいったい何なのでしょうか?著者は「不確定で曖昧な未来に対して、どうなっても絶対に後悔しないと最初に決め抜いておくための掟のようなもの」といいます。そもそも未来は不確定であるのに「正解を選べていたか?」と葛藤するより自分の選択を正解にすると決めきる方がよいのではないでしょう?