夢をかなえる片づけ観音さま No.8
『言いわけ大王 現るの巻 2』
8月27日(土) 前回のつづき
お昼ごはん時だけど、まだ外は蒸し暑い雨が降っている。
でも、お義母さんが訪ねて来てくれたから、徹は張り切ってお手伝い。
「ケチャップ乗せるのは僕にやらせて!」
オムライスの上に、徹がケチャップで絵を描きはじめた。
錦織圭もオムライス好きって言ってたな。
ぐるぐると渦を巻いたあとに、Vの字を描く。Vの字の先っちょに、それぞれ小さなハートマークを付けて
「はい、これおばあちゃんの」
オムライスの乗った皿をお義母さんに差し出す。
「あら〜なんか可愛いね〜。ありがとう」
喜んで両手で大事そうに受け取るお義母さん。
「これね〜、デンキチ」
私のオムライスにも同じ絵を描きながら、徹が答える。
「でんきち? 徹ちゃんのお友達かい?」
お義母さんが不思議そうに皿を眺めながら聞く。
「デンキチはカタツムリだよ。お父さんとね、夏の自由研究で観察したんだ。学校の帰り道にあるお寺で見つけて取ってきたの。デンキチのほかにデンイチとデンジもいるよ。デンキチが一番ごはん食べて元気なんだ」
「カタツムリさんたちは、どんなごはん食べるのかい?」
「葉っぱがごはんなんだよ。キャベツとかレタスとかが好物なんだ。お父さんがスーパーとかで捨てられちゃう葉っぱのところもらってきてくれてるの。他にね、石も食べるんだよ。石を食べないとね、殻が弱くなっちゃうって本に書いてあった」
「よく勉強したんだね〜。だからデンキチも元気なんだね」
徹はお義母さんの言葉に頬を赤らめ、
「ごはん食べ終わったら、僕の部屋に来て! カタツムリさんたちのお家見てよ」
オムライスを口いっぱい頬張りながら言った。
食事を済ませ徹の部屋に行く。
徹がドアを開けると正面のベットの上には脱いだ服が散らばっていて、机の上にも床の上にもオモチャやゲームが出しっ放しになっていて足の踏み場がない状態。
私と徹に続いて部屋に入ってきたお義母さんが、
「あらまぁ、これはすごいね〜。まるでジャングルみたいだ」
とひとこと。
「徹ゥ~、片づけときなさいっていったでしょ~!」
思わず大声で怒鳴ってしまう。
シュンとして俯く徹。足元にあるピカチュウ人形をチョンと蹴飛ばす。
お義母さんが私の肩を後ろから叩いて小さくウィンク。
「おばあちゃんがジャングルって言ったのは、こっちのことだよ。ほらこの水槽。下に薄く水が張ってあって、いろんなサイズの石が置かれてる。その上には木の枝が上手にかけてあって、葉っぱが被さってて・・・カタツムリさんが隠れることができるように工夫してある。こんな小さな水槽の中に、よく考えて作ってあるじゃないの。これ、徹ちゃんがひとりで作ったの?」
ピカチュウ人形を取り上げ、もじもじしながら徹が答える。
「そう…。お父さんに買ってもらった生き物図鑑を見ながら作ったの。カタツムリさんてね、ちょっとジメジメした葉っぱの裏側が好きなんだって。あんまり明るすぎるとダメだって本に書いてあったの。この枝はね、このカタツムリさんたちのいた木の枝なんだ。それでね、この石はカタツムリさんの殻の元になる石なの。本にのってたのと同じ石探すの大変だったんだ」
「ヘェ〜、これは大したもんだ。面白いと思うよ、おばあちゃん。カタツムリって昔はたっくさんいたけど最近とんと見ないからねえ。徹は生き物が好きなんだねぇ~。亀さんとかハムスターも飼ってるもんね」
「見てるとね、楽しいの。亀さんもハムスターさんもカタツムリさんも、食べるごはん違うし食べ方も違うでしょ。気持ちいいって場所もみんな違うしさ。それを調べて、みんなが嬉しそうにしてるの見るのが好きなの」
徹の生き物好きは子供のときにありがちな好奇心だけだと思ってたけど、お義母さんとの会話を聞いていてチョッと驚いた。
飼ってる動物たちが気持ちいいと思う環境を、ちゃんと調べて工夫して作ってるんだ。知らなかった。
そういえばカタツムリの水槽の掃除も、亀やハムスターの世話も徹は全部ひとりでやってる。
私が子供の頃は、お強請りして買ってもらったインコの世話はほとんどやってなかったな。母が文句を言いながらやってくれていたっけ。
「ところで夏の宿題は全部終わったの?」
突然お義母さんが話題を変える。
「終わってないの。国語と算数の宿題」
机の上を眺めて徹は暗い顔。
「あらまあ、それじゃやらないとね〜。でも、どうして自由研究の宿題はやったのに、国語と算数の宿題やってないの?」
「つまんないんだもの。国語とか算数って・・・」
「じゃあ、自由研究はなんで面白いの?」
「だってさ、生き物図鑑にはいろんな面白いお話や写真がのってるし、見てて楽しいから…」
「そんなに楽しいのかい? じゃあ、国語や算数が面白くなるには、どうしたらいいと思う?」
「生き物図鑑みたいに、読んでて楽しい本とかあったらお勉強するかも・・・」
「そうか、じゃあ、おばあちゃんがそういう本を見つけてきてあげよう。今は楽しく読める参考書いっぱい出てるからね。写真とか説明文とか面白い話、いろいろ載っている物を探してきてあげようね。でも、その前にこのお部屋をまず片づけようか。ちゃんと机に座って、楽しい本が開けるようにね」
コクリと徹が素直に頷く。お義母さんは私に、
「じゃあ久枝さん、ここは徹と二人で片づけるから。ちょっとゆっくり休みなさい。月曜からまた仕事でしょ?」
と告げ、徹になにやら耳打ちして部屋の戸を閉めた。
確かに疲れが溜まっていたのか、急激に眠気が襲ってソファで横になるとぐっすり寝込んでしまう。
どのくらい寝ていたんだろう。起き上がって徹の部屋に行ってみる。
汗をかきながら片づけに夢中になっている徹が振り向く。
「あ、お母さん。どお? おばあちゃんと一緒に片づけたんだよ」
「これで、机で本も見やすくなったよね」
腕まくりをして手伝っている義母が徹の頭を撫でる。
「うん。引き出しの中もキレイになって気持ちいい」
部屋の中はまだ片づけ最中のようで床には物が散らばっていたけれど、机の周りはスッキリと整理されていた。
あんなに散らかり放題だったのに、お義母さんいったいどうやって片づけさせたんだろう?
「徹が自分で考えて片づけたんだもんね。おばあちゃんはちょっとアドバイスをあげただけ。 これからは自分でちゃんとできるよね」
とお義母さん。
「うん、大丈夫だよ。宿題ちゃんとやるからね。でも、おばあちゃん、あの話は内緒だよ」
徹がちょっと頬を赤らめながらお義母さんに告げる。
「内緒ってなあに? お母さんも仲間に入れてよ」 と私が言うと、
お義母さんが作業していた手を止めて立ち上がった。
「さあ、じゃあ おばあちゃんはそろそろ帰らないと」
何が何やらわからないまま、お義母さんにお礼を言い玄関まで見送ると、
「そうそう、それから久枝さんにも私から宿題出しといたから。徹ちゃんの夏休みが終わるまでに考えて答えをみつけといてね 。猫ノートに書いておいたから後で見といてね」
傘をたたみながらお義母さんが言った。
玄関を開けると、雨は止み雲間から夕日が射していた。
「じゃあ、お母さんと僕とどっちが先に宿題終わるか競争だね〜!」
と徹が弾んだ声で 私を見上げながら言う。
え? 猫ノート? やっぱりお義母さんは片づけ観音さまだったんだ。
夜、寝る前に猫ノートを開いてみると、そこには3つの項目が書かれていた。
1 「言いわけ大王」を呼ばないでね。現れると厄介なことになるから。
たとえば、徹ちゃん。宿題が出来ていないことを久枝さんが指摘したとき、徹ちゃんはやってないのは久枝さんのせいだって言ってたでしょう。
言い訳をし出すと、結局やらないことにつながってしまう場合が多いの。
楽しく自分からすすんで勉強するように、徹ちゃんのやり方を尊重してあげてね。徹ちゃんが頑張っていることを見つけてあげて、褒めてあげてね。それから、本人にまず考えさせて答えが出るまでちょっと待ってあげること。これ、とっても大切ですよ。
2 徹ちゃんは夏休みの宿題ができたら、久枝さんにハグして欲しいそうよ。(これは内緒って言われたんだけどね) 久枝さんがお仕事で居ないから寂しいみたいです。 ちゃんと終わったら、うんとハグしてあげてね。
3 久枝ちゃんの子供の頃の夢を思い出してみて。どんなことに夢中だったか、どんなことが好きだったか、どんな風になりたいって思ってたか。
お義母さんこと、片づけ観音より
つづく
緑マーカーが入っているところをクリックすると、お義母さんが徹ちゃんに教えてあげた秘密の方法がわかります!
最後までお読みいただきありがとうございました。
さあ、久枝さんはどんな回答を出すんでしょうか?
乞うご期待!!
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