NO・5夢をかなえる片づけ観音さま
- テーマ:
- 小説
夢をかなえる片づけ観音さま No.5
『愛のキャッチボールの』
7月19日(火)先負
朝から日が眩しい。夏らしい天気になってきた。今日は洗濯物がスッキリ乾きそう。
最近仕事は慣れてきて、効率よく進む方法を自分なりに考えて実行している。
慣れてくるとお茶くみの仕事でも、いろんなことが見えてくるから不思議だ。
たとえば、会議室のお茶出し。給茶機は3つボタンがあって、濃い目、普通、薄目にわかれてる。
今までは無難な普通で持って行ってた。
でも社員さんとちょっと会話すると好みがだんだんわかってきて、
好みに合わせて入れてあげるとすごく喜ばれる。
「小林さんの入れてくれるお茶って、なんかホッとするんだよね」とか、
「会議行き詰ってたんだけど、小林さんのお茶飲んだらいい案が出たんだ」
なんて嬉しい言葉までもらったりして。ちょっと楽しくなってきた。
これは、片づけ観音さま に「朝の一服」 を教えてもらったおかげだ。今度逢ったらお礼を言わなきゃ。
「片づけ観音さま」って勝手に名付けちゃったけど
ここのところ出てきてくれない。
うちの部屋の片づけは中途半端のまま。
リビングはまたカオス状態になりつつある。
忙しいのかなぁ、観音さま。
7月22日(金)赤口
昨日、気象庁が関東・東海地方の梅雨明け宣言を出した。だけど今日は曇りで、
また湿度が高い。洗濯物が乾かない のって、主婦にとってはかなりのストレス。
徹が小学校の夏休みに入ったから、生活パターンも替わり食事の準備に頭を痛めてる。
昼ごはんを弘さんに頼むとインスタントラーメンばっかりで… 塾の時はお弁当が出るから
安心なんだけど。
栄養面を考えると手作りしたいけど、帰りがけにお惣菜のパックを買ってくることが多くなってる。
徹は夏休みの宿題がたくさん出ているらしく、
「自由研究って言われてもさ、なにすればいいのか全然わかんないよ」
と悩んで弘さんに相談してた。
弘さんはアマゾンで何冊か本を買ったらしく、いくつか工作のアイディアを出して協力しているみたい。こういうとき、男親って頼りになる。
でも、最近ちょっと気になることがある。
ときおり、夜に出かけることがあって…。
「友達に会うから」とは言ってるんだけど、
夜中12時過ぎになることもあるし、飲んで帰ってくる。
そんな余裕 ウチにはないのに…いったい誰と会ってるんだろう?
7月29日(金)先勝
お義母さんが庭の畑をやっている最中に、熱中症で倒れて救急車で病院に運ばれる! ご近所さんから連絡があったらしく、弘さんからメールが入る。
弘さんと徹は車で病院に向かうとのこと。
仕事が終わって病院に直行。
弘さん
からお医者さんの説明を聞いた。
脱水症状が酷くて入院しなきゃならないらしい。
病室に入ると、おばあちゃんが大好きな徹は、今にも泣きそうな顔をしてベッドの側にいた。
「大丈夫だよ、徹。おばあちゃんすぐに良くなるから」
お義母さんが徹の頭を撫でながら微笑んでいた。
弘さんの聞いた所によると、お義母さんは調子が変なことに気付いてはいたらしい。
けど、我慢して作業を続けていたのがいけなかったそうだ。
がんばり屋さんのお義母さんらしい。
お義父さんと一緒に作った庭の畑。
収穫した野菜を私達に渡すのが何よりも楽しみだったから。
受付で入院手続きを済ますと、入院に必要な物が記された紙を渡される。
明日までに持ってきてほしいとのこと。
週末なので鹿島の実家に泊まり、病院に行き来することにした。
7月30日(土)友引
朝から病院でもらった入院案内の用紙とにらめっこ。
個室しかないって言われたらどうしようってヒヤヒヤしてたけど、
幸い5人部屋が空いてたので、入院費は保険で何とか賄える。
それにしても、入院に必要な物って結構ある。
寝間着に下着、靴下、カーディガン。病院内ではくスリッパとか洗面用具も。
ご飯を食べる時に必要なお箸とか湯のみも書いてある.
それから、筆記用具とティッシュ。
お台所回りの物は勝手を知ってるからすぐに用意ができたけど、
お義母さんの衣類をとりに部屋に入るのはちょっと気が引ける。
リビングでテレビを見ていた弘さんを呼び、付き合ってもらう。
ドアを開けて驚いた。
キッチンもリビングもきちんと片づいているのに、
お義母さんの部屋は物が溢れて雑然としていた。
寝室を兼ねているらしくベッドが2台あるんだけど、
片方のベッドの上には山高くいろんな物が積まれていた。
きっとお義父さんのベッドだろう。
お義母さんが寝ているらしいベッドの枕元には、通販雑誌が散らばっていた。
デパートの通販雑誌からテレビでよく聞く通販会社の雑誌やら5冊もあった。
これを見て過ごすのが楽しみだったのかもしれない。
広げるとドッグイアーしているページが沢山。
ご当地限定の食品や収納家具、
洋服、靴、バッグにも赤ペンでチェックがしてあった。
そういえばお義母さんからよくもらっていたウニの瓶詰めは、
このデパートの包み紙だったっけ。
お義父さんのベッドの上の物をチェックしてみると、
洗濯したゴルフウェアやズボンの他に、
男物のコートやジャケットがハンガーにかかったまま置いてあった。
不思議だったのは、買ったばかり風の袖を通してない新品のポロシャツがその上に乗ってたこと。
「親父が死んでからもう5年経つのに、おふくろまだ片づけてないんだ・・・」
弘さんがぽつりと言う。
「部屋に入った事無かったから知らなかった」
床に散らばっている物を拾い上げながら私が言うと、
「なんとかしなきゃなぁ」
と頭を掻きながら弘さんは部屋を出て行った。
7月31日(日)先負
朝から湿度もあまりなくて、いい天気。
弘さんと徹は入院グッズを持ってお見舞いへ。
私は昨日お義母さんの見舞いに行ったときに
部屋の片づけを許可してもらったので、
近くのホームセンターでゴミ袋を買い、お片づけ。
とりあえずはお義父さんのベッドの上から片づけなきゃと思い、
上から順に仕分けてゴミ袋に入れて行く。
弘さんとお義父さんのサイズは違うし、取って置くとまた物が増えてしまうので
思い切ってどんどん捨てていく。
収納棚の上をふと見ると、お義父さんとお義母さんが一緒に写ってる写真がおいてあった。
どこかへ旅行に行った時の写真だろう。
お義母さんの笑顔が少女のように可愛い。
お義父さんは脳卒中であっという間に逝っちゃったからきっと寂しいんだろうなぁ。
写真の横には陶器の唐獅子親子の置物に、ベビー服をきたキューピー人形。
キューピー人形? 何かの景品で貰ったのかな。
迷いなく、燃えないゴミの袋に投げ込む。
そのときだった。
背後に声が。
「はぁ〜スッポン、スッポン。
それ、ダぁメ〜ダメ〜!!
はぁ〜スッポン、スッポン」
へ? 振り向くと、涼やかなミント色のワンピースを優雅に身にまとった観音さまが居た。
「あぁ〜、観音さまぁ! 待ってたんですよぉ、私。家の中またゴチャゴチャになっちゃってて」
「久枝ちゃん、あんた片づけで一番大事なことなんだか知っちょる?」
「へ? 要らない物は捨
てること、必要以上に物を増やさないことじゃないんですか?」
「自分の物なら、それでもええけんどね。自分以外の人の物片づけるときはそれじゃダメなんよぉ」
「どうしてですか?」
「だって、ほら。弘さんや徹君にも言われたんとちゃうの?
久枝ちゃんの基準で捨てないでくれって。だからね、
自分以外の人の物を片づけるときに一番大切なのは、
愛のキャッチボールなんよ」
「なんですか? それ」
「たとえばね、久枝ちゃんここんとこ弘さんの帰り遅いからちょっと心配しとるやろ」
「うわ、なんでもお見通しですね。実は、同窓会行ったあとちょくちょく夜出かけたりしてて…」
「浮気とかしてるんじゃないかって疑っとるん? じゃ、
一つ話聞かせちゃるけど…以前見てあげてた子ぉにね、
女性実業家でバリバリやって成功しとった子がおったんよぉ。
でもね、その子、旦那さんが帰ってくるのが毎日遅いって心配しだして。
素直に話し合えばいいのに、もう想像したら止まんないのんね。
浮気相手はどんな人なんやろって。
そいで、高い寝具買いまくったり、高級ブランドの時計とか旦那さんにプレゼントしたりしてね。
旦那さんはそういう物はあんまり身につけるタイプじゃないから仕舞っておくと、
気に入らんのかと思って、さらに買ってきて物は増えるばっかり。
あげくの果てに占い師に頼ったり、探偵事務所に調査依頼」
「うっわぁ、そこまで・・・」
「私は何度も話し合いなさいっちゅうたのに、そん子はよう受け入れんかった。
私だけが頑張っちょるっちゅう気負いもあったんやろね」
「で、どうなったんですか?」
気づかないうちに前のめりになってる私。
「結局探偵事務所が持ってきた結果報告は浮気なんかじゃなかったんよ。
奥さんの仕事をサポートする為に自分の知り合いに強力を頼んだり、
奥さんが販売している物を買ってもらうルート探しを自分の仕事が終わった後にしとったんよ。
泣けるっしょぉ。それなのに、浮気だと勘違いされちゃったんだから」
「え〜〜〜! なんて優しい旦那さま。ウチとはえらい違いだ」
「なに言っちょるの、久枝ちゃん。弘君だって頑張っちゃるよ。
あんたこそ、ちゃんとコミュニケーションしなさい。
仕事場では会社の人の好みとか気ぃ使っとるのに、家庭こそそうしなあかんよ〜。
一緒の屋根の下住んでるからって、なんでもわかっとると勘違いしちゃあかんよ」
そういえば私、最近弘さんとあまり話してない。徹のことも弘さんに任せっきりで、毎日のことに追われてたかも。
「それから、久枝ちゃんが捨てたキューピーさんね 〜。ちゃんとべべ(洋服)着せて大事にしちょるし。
お義父さんの写真の脇に飾ってあるっちゅうのは、なんか意味あるち思うけんどね」
「でも、じゃあどうやって整理すればいいんですか、このお部屋。頼まれたのはいいけれど、お義母さんが居なくちゃどうしようもできないんですか?」
「そうそう、それを教えに出て来たん。ちょっと話が飛んじゃったぁね。
なんか久枝ちゃんがヤケになって片づけしちょうみたいやから、
まずは弘さんとのこと話しとかにゃいかんと思っとったのよ」
「わかりました。弘さんとはちゃんと話します。モヤモヤしたまま生活するのも嫌だし」
「そうそう、いい心がけ。夫婦は何年経ってもよく会話することが大切なんよ。
それがずっと仲良くおれるコツ。愛のキャッチボール、愛のキャッチボール~!」
片づけ観音さまは、お義母さんのベッドに腰掛けて部屋を見回した。
「お義母さんの部屋の片づけはね、お義母さんの価値観を無視したらいかんよ。
これも愛のキャッチボールが大事。
お義母さんと久枝ちゃんとでは生まれて育った時代も環境も違うっしょ。
それにね、 歳とると思い出っちゅうのが生き甲斐になったりもする ってのは理解しとかなあかんよ。
まず久枝ちゃんはここにある物を仕訳して、お義母さんが判断しやすいようにしてあげるといいんよ。
それには、
①ジッパー付きの保存用圧縮袋と段ボールを用意してちょうだい。
②日付書き込めるよう目立つ色のマジックも必要やよ。
③部屋に一か所スペースを空けて、整理した段ボールや圧縮袋を積めるように仮置き場作ること。
仕訳方は、衣類や布類、布団や枕は圧縮袋にね。お義父さんのゴルフのトロフィーとか旅行バッグとか嵩張る物は段ボールに入れて、外に何が入ってるか必ず書き込むこと。
そいでね、目についたものから片づけていくっちゅう方法はとらんでね。
気が散漫してよけい疲れるから。
部屋の端っこから方向を決めて順々にやっていくとええよ。
そうすれば片づけしたところが少しずつ増えていくから、やる気でるんよ。
一番大事なことは、時間を決めるてやること。
なんでも人間ずっとやり続けると疲れるし、集中力かくからね。
弘さんや徹君にも手伝ってもらうとええよ。
自分以外の人の片づけをすると、きっといろんなことに気づくから」
「手伝ってくれるかなぁ、あの二人が…」
「そりゃ、久枝ちゃんの知恵の使いどころよね。どうやったら手伝ってくれるか、
ヒントは猫ノートに書いといたから、ほい、ここ置いとくからね。ああ、もうこんな時間。そろそろ行かな。あ、そいから『片づけ観音さま』っちゅうのイイわぁ。気に行っちゃった。これからそう呼んで!」
不安げな私の顔を見て、観音さまは肩をポンと叩いて消えていった。
猫ノートの新しいページには、こう書かれていた。
「みんなでお部屋が片づいたあとに、お義母さんが帰ってきて喜ぶ姿を想像してみる」
つづく
さて、弘さんと徹君は片づけを手伝ってくれるでしょうか? キューピーちゃんや新品のポロの謎は?
次回をお楽しみに。
最後までお読みいただきありがとうございます。
山口りんか
☆生活お役立ちブログもやっています。
こちらもよろしくお願いします。
インスタグラム やっています
猫ブログもやってます。