人間の体の中で『臓器の時間』が短いのは、腸と腎臓なのです。
血液が臓器の機能維持の生命線であることは言うまでもありませんが、
腸の血液消費量は全身の血液の30%、腎臓は20%を占め、
血液消費臓器ランキングの第1位と第2位です。

多くの血液を使う腸と腎臓はそれだけ多くのエネルギーを使っているのです。
腸と腎臓は、なぜそれほどまでにエネルギーを使うのかと云えば、
ともに「吸収」と云う、骨の折れる仕事を担当しているからです。

 <メタボリックドミノが起きる>
 メタボとは、内臓脂肪が蓄積された肥満が原因となり、
高血圧や高血糖などの生活習慣病が併発した病態のことです。
これを放置すると将来動脈硬化を引き起こし
心臓病や脳卒中などが発生するリスクを高めることが明らかとなっています。
実は腸は、メタボリックシンドロームを引き起こし、
そしてどんどん進める“腸本人”なのです。

 腸の本来の仕事は大きく二つあります。
一つは「食物の消化吸収」、
もう一つは食物と一緒に体内に侵入しようとする外敵の排除、
つまり「腸管免疫機能」です。腸の老化が進めば、
腸の免疫力が落ち、さまざまなバイ菌などの外敵が侵入しやすい環境ができます。
過食するとそれだけ多くの外敵が体への侵入を試みることになるのです。
その結果、さまざまな臓器で炎症が続き、それぞれの臓器の障害が起こります。
体は栄養素をうまく利用して消費することができなくなって、
どんどん肥満、メタボの病態が進んでいくのです。

 腸の老化のスピードが速まりメタボが進むと血管が障害されて、
各臓器で酸素不足になります。
この段階で最初にダメージを受けるのが、酸素不足に最も敏感な腎臓です。
腎臓に不具合が生じると、その情報は腎臓神経によって脳に伝えられます。
すると脳から心臓に行く神経がその変化を感じ取り、
興奮することで心臓をフル回転させるようになり過剰な負担がかかります。
こうして、腎臓病の人は心筋梗塞、心不全の発症リスクが高まることが、
最近の研究で分かってきました。

初めは内臓脂肪が溜まる肥満だけだったのが、
それが高血圧を呼び、脂質代謝異常症、糖尿病、動脈硬化などと拡大していく。
一つの臓器が病気になると、
関係する他の臓器にも機能の低下が起こっていく関係は『臓器連関』と云われています。
(メタボリックドミノと呼んでいます)

 逆にいえば、キーとなる臓器の老化を遅らせることができれば、
それに連動して他の『臓器の時間』もゆっくりになる。
そのキーとなる臓器こそが、腸と腎臓なのです。

 腸と腎臓にはそれぞれが原因となって起こる代表的な病気があります。
それは、腸=糖尿病、腎臓=高血圧です。
この二つの病気を防ぐため、過食や塩分の取りすぎ、
運動不足を解消するなどして、
腸と腎臓に対するケアを確実に励行することで
腸と腎臓の時間の進行を遅くすることができます。
そうすれば、身体の他の様々な『臓器の時間』も遅くすることができるようになり、
長寿に結び付くのです。

<文藝春秋 6月号 【腸、腎臓は短命臓器の寿命に備えよ】

  慶応大学医学部教授 伊藤 裕氏より抜粋>


●医学の新しい考え方「臓器の時間」とは?
心臓、肺、胃、腎臓、腸など臓器にはそれぞれ寿命があり、
その時間が尽きてくると病気になる。
すなわち、「臓器の時間」の進み方で寿命は決まる。
では、それを進めないためにはどうすべきか?
臓器は脳へ指示を出す(臓器の思考)、
ひとつの臓器が悪くなると他の臓器も悪くなる(臓器連関)、