はいさい。フライトドクター ヨシバードです。
怒涛の4連日勤+週末日勤が終わり、体力回復もつかの間、今日から初夜勤(2連勤)突入です。入社して2か月半。勝手は慣れてきましたが、まだまだ効率よく仕事をこなしているのとは程遠いです。先輩たちのスキルを盗みながら、一日でも早くテキパキと流れるように仕事ができればいいなと思っています。
この仕事は航空搬送がメインと思われている読者の方も多いと思いますが、それは誤解です。派手でドラスティックにみえるのでそう思われても不思議ではないのですが、それは全症例のほんの一部です。ほとんどは、それ以外の電話上での応対です。
今日は、その一部 「コード・ブルー」を紹介をしようと思います。
週末の日勤は敗北の一日でした。平日はシンガポールに関する業務(5-6ヶ国)をしますが、週末は東南アジア一帯を管轄します。対象範囲が、急にインドシナ3国を含めた倍以上の国になります。次々からくるコールに、株トレーダー顔負けのパソコン2台、モニター4画面(!)で対応していましたが、対応は遅れ気味。それ以外にも、当日中にこなさなければいけないこと(主治医や患者さんとの電話面談や、紹介状の作成、情報提供書の解読)なども山積しており、僕の非力なCPUはフリーズ寸前でした。
その中での、ファーストコール!
生来健康な中年男性が旅行中に突然けいれんをおこしたとのこと。一旦、けいれんは収まったものの再び発現し、その時に舌を噛んだのか口から出血しているとの、狼狽した妻からのコールでした。けいれんは止まったものの、腰が痛いとの訴えあり、暴れまわっているといっていました。
痙攣重積状態、脳炎、髄膜炎、アルコール離脱、薬物、低血糖、高血糖、致死性不整脈...などなど怖い疾患が思い当ります。でも、一番気になったのは、「腰が痛い」というキーワード。これまで痙攣の既往がない人が痙攣をおこすというのは、何かしら重篤な理由が隠れているに決まっています。とっさに気になったのは、大動脈解離でした。解離が頸動脈に及べば脳虚血による痙攣は十分に考えられますし、さらに弓部から下行大動脈に及べば背部や腰の激痛が生じても不思議ではありません。
こういった緊急性を示唆するコールは「コード・ブルー」と呼ばれています。それまでの作業をすべて中断し、本症例に集中的に時間をかけます。妻からでは情報収集は不可能と思い、友人に電話を変えてもらった上で、落ち着いた声で話かけました。こういう時は、相手のペースにはまってしまうとパニックの悪循環に陥ってしまいます。
「落ち着いてください。大丈夫ですよ。電話でそばにいて、どうすればいいのか指導するので、落ち着いてください。大丈夫です。」
とりあえず救急車は向かってきているとのこと。来るまでの時間にできる範囲内で情報収集をします。
少なくても意識に関しては、朦朧とはしているものの手足の麻痺はなさそう、呼吸についても早くない、全身蒼白にもなっていない、舌出血は出てはいるが大量には出ていなさそう、他のみえる外傷はなさそうだということはわかりました。循環と呼吸はひとまずは大丈夫そうです。体は少し熱いかもといっていましたが、窒息の可能性があるため、水を含めた口からの食べ物の摂取は控えるように指導しました。そして、再痙攣の可能性が高いので、できればソファーに座らせた上で、誰かがずっと付き添っているように指導しました。腰の痛みは相変わらずです。
救急隊が着いたのが15分たった後でしょうか。倍以上に感じました。救命士に電話をかえるように伝え、大動脈解離の可能性を否定できない旨を説明し、心電図で致死性不整脈の否定と低血糖を否定した上で、血圧の左右差をはかってもらいました。結果、10mmHgほどですが、左右差はあります。血圧の変動をさせないようにお願いし、最寄りの緊急CTと緊急心臓手術に対応できる救命センターへの搬送選定をお願いしました。
発症から約45分後、容態の大きな変化なく無事に救急医に引き継がれ、必要な治療と検査が急いで行われていることを確認し、やっと電話を置きました。ひとまず、第一段階はこれで終了。受話器を置いたのと同時に、全身脱力になりました。
その間にもコールはどんどん入ってきます。待たせている患者さん達に一人ずつ電話をかけなおし、遅れた分を取り戻そうと午後は奔走していました。
今は患者さんを目の前にして診察をすることはありませんが、救急で培った経験が生かされていることは間違いないです。電話の声のトーンや症状から「緊急性の高さ」を判別するのはチャレンジングですが、やりがいを感じます。こういった時は、たとえ医学的情報は入ってこなかったとしても、常にオンラインにして様子を電話越しにモニターし続けることが、家族を落ち着かせ必要な行動を可及的速やかに指導できるのだと改めて思いました。
さぁ、今夜は夜勤。更に対象範囲は広がり、香港とマカオも管轄に入ります。平和な夜であることを祈っています。
※写真は本文とはあまり関係ないものもあります。悪しからず、ご了承ください。