ヒナちゃんの物語 はじまり3(終わり) | 流れ星ネコのまた旅日記

ヒナちゃんの物語 はじまり3(終わり)

3 そのころ、おかんとおとんは

 

 お兄ちゃんとお姉ちゃんが琵琶湖で流れ星を見ている頃、おとんとおかんは家の中、炬燵にあたってほっこりしていました。

 日曜日の夜だったので、おとんはいつもよりゆっくりお酒を飲んで、少し飲み過ぎたのでした。普段であればおかんとお姉ちゃんの二人の監視の目があるのですが、この日は監視が一人少ないのをいいことに、ついグイグイといってしまったのでした。しかも、その日飲んだのはボージョレ・ヌーボー。解禁されたばかりのワインだお祝いだなんて調子に乗って飲んでしまったのでした。


 ラベルが残ってた。2001年のボジョレヌーボーのラベル。


 おとんは、酔っ払って寝てしまいました。

 酔っ払うと、訳のわからない夢を見ます。大体は忘れてしまいますが。

 でも、その日の夢は鮮明に残っていました。

 

 おかんが、子ブタ二匹に引っ張られてやって来るのです。

 子ブタはとても元気で、ヒモをグイグイ引っ張っています。おかんは、

 「可愛いから家で飼いたい」

 って言いました。

 おとんはとてもびっくりして、

 「ブタはだめ。すっごく大きくなるんだから。家でなんか絶対に飼えないよ。しかも二匹も、、、そうだ、ブタは首輪もはめられないから、散歩もできないよ」

 シュールな夢の中でも、おとんは常識人でした。

 そう言われて、おかんもさすがにブタは無理だと思ったのか、しぶしぶ納得したのでした。

 大きなブタが二匹、家の中を走り回っている姿を想像したのでしょうね。

 でも、

 「ブタはダメでも、猫ならいいでしょ?」

 とうしろを振り向いたのでした。

 

 後ろには、子猫を抱いたお姉ちゃんが立っていました。

 猫だって問題です。生き物を飼うのって大変ですね、ブタほどではないですが。

 最後まで、一生をまっとうするまで責任を持たなければいけません。

 お姉ちゃんは、子猫をしっかり抱いて、真剣な眼差しでおとんを見つめています。

 困ったな、どうやって説得しようかな、と思っているうちにおとんは目を覚ましたのでした。

 

 おとんは、夢をいちいち人に話す方ではありませんが、その日の夢はとても奇妙だったので、朝、おかんにその話をしたのでした。

 ワインを飲み過ぎたせいで、あんな夢を見たのかな、と思ったのでした。

 

 その日、仕事を終えて家に帰ると、おとんはこたつ布団の上にヘンなものを見つけました。

 子猫です。

 

 

 子猫が丸まっていました。頭と尻尾を丸めて、こたつ布団の上で寝入っています。

 おとんは、唖然としてその姿を見つめました。

 ー夢の中に出てきた子猫が、家にいる?

 意味がわからず、おとんはおかんを振り返りました。

 おかんは知らん顔。

 「何もいないよ。まだ夢を見てるんじゃないの?」

 おとんはますます混乱して、口をポカンと開けていると、

 おかんは「ドッキリカメラ大成功!」みたいな顔をして説明してくれたのでした。

 話を聞いても、おとんは混乱するばかりです。おとんの単純な脳みそでは理解を完全に超えています。

 

 

 お姉ちゃんはもう断固たる決意です。

 おかんも、お姉ちゃんの話を聞いて完全に共同歩調です。

 夢の中ではためらっていたおとんですが、もう勝負はついていました。

 

 おとんが子ブタと子猫の夢を見ていたころ、

 お兄ちゃんとお姉ちゃんは、琵琶湖畔で本当に子猫に出会っていたのでした。

 混乱していたおとんも、まるまっている子猫を見ているうちに、目の前の子猫と夢の中の子猫の二つが、次第に一つに焦点が合わさっていくように感じました。

 ー正夢だった

 と思ったのでした。

 

 おとんは霊感とか第六感とかもなく、いたって平凡で現実的な人間です。

 夢のお告げなんて一度もなく、信じたこともありません。

 でも、夢に出てきた子猫がここにいる、と思いました。

 しし座流星群に乗ってやってきたんだ、と思いました。

 獅子は無理でも猫ならあるかもしれない、なんて思ったりもしました。

 昔の映画『2001年宇宙の旅』が現実になって、子猫が宇宙からやって来たんだ、と思いました。

 

 こういうことがきっと、

 『出会い』

 ということなんだなと思いました。

 夢を見たこともただの偶然だったかもしれません。

 でも偶然でもいいと思いました。

 ー人間なんて誰だってとても普通で、出会いはどれだって特別だろう

 とB'zの稲葉クンも歌っていました。

 人間同士の出会いだって特別なのですから、猫ちゃんとの出会いは、それはもう奇跡ですね。猫ブログの皆さんならもうとっくにご存知のように。

 

 きっと、何かがつながっていたんだね。

 

 こうして、青い目をした子猫は

 『ヒナ』

 と名付けられて、我が家で暮らすようになったのでした。

  

 

 おかんとお姉ちゃんは昔から猫好きだったので、ヒナちゃんが来たことをとても喜びました。

 おとんは猫好きではなかったのですが、恐る恐る、でも興味津々で夢に出てきた子猫を見ていました。

 

 その愛らしいこと!

 みんな、可愛い子猫が来たな、と思いました。

 

 

 抱っこしたら足蹴りしたりして、元気な猫ちゃんだなぁ、なんてニコニコしてました。

 

 

 きっと良い子に育つね。ご飯たくさんあげるからね。

 

 

 ・・・・・・・・・

 そして、気がついたら、手に引っ掻き傷ができたりして、、

 元気すぎる猫ちゃんだねえなんて話したりしてました。

 でもそれがただの『元気すぎ』ではないことに気付くのに、そう時間はかかりませんでした。

 

 

 それはもうデンジャラスな子猫で、、、

 医者送りの傷害事件2回、警察のお世話1回の極悪非道の猫だったなんて、、、

 ご存知の方もいらっしゃると思うのですが。

 

 まあ、その話はまた後日。(おしまい)

 

 

<余談ですが>

 ところで、子ブタたちはどこに行ったのでしょう。

 お姉ちゃんが連れてきた子猫は、我が家にやってきました。

 おかんが連れてきた二匹の子ブタは、いったいどこにいったのでしょう。

 どこかで、「わたし、この子ブタ飼うし!」と宣言する人に出会えたのでしょうか。

 前に書いたとき、

 琵琶湖畔を駆けまわっているよ、とおっしゃってくれる人がいました。

 空を駆け上って、ブタ座になってますよ、とおっしゃてくださる方もいました。

 

 今はきっと、ヒナちゃんと一緒に駆けまわっていますね。琵琶湖の湖畔や星空の上を。