Being の時代の幕開け〜(12)

エビデンス信望の末路

セルフフルネスアカデミー(東京アレクサンダーセンターの活動)

 

 

情報化社会にどっぷり浸かっている私達は、何でも頭で処理することに慣れ、部分的な対処(正解のある学習や合理的な考え方やメソッドなど)は上手になりますが、自分の心を捉えるのは凄く下手です。

セルフフルネスは、今までのパターン化された学習から自分を解放し、自分や周囲の現実に向き合う体験を積み重ね、「beingの世界」に身を置く取り組みです。

このシリーズでは、現代社会に今こそ必要とされる「beingの世界」を一緒に見ていきましょう!

 

今回は、「エビデンス」についてお話しします。

 

【エビデンスは、根拠の深さ?】

「エビデンス」という言葉は、学術論文などに代表される

「検証された」

「客観的な」

「信頼性の高い」

「根拠がある」

「科学的に証明された」

ものとして使われます。

 

確かに、

「個人的な都合や思い」と、「より万人に共通しそうな法則」とを区別しないと、

判断力を欠いて、風見鶏になったり、

物事の重要度を位置づけできないで

誤解や認知の歪みを作ることになります。

 

【「科学的に証明されたもの」の信頼度】

では、「科学的に証明されたものの信頼性が絶対か?」というと

そんなことは全然ありません。

特に、人間などの生体系を扱う分野(健康、病態、心理、行動など)では、

そんな単純に答えが出せないものがほとんどです。

なぜなら、「人間の機能」は、複雑系(様々な要素が影響している生命体)だからです。

 

実際、世界的な科学雑誌に掲載された論文や、ノーベル賞受賞した論文でも、

追試したら再現できなかったケースはものすごく多いのです。

 

例えば、2008年に発表された100本の論文を対象とした大規模な追試プロジェクトの結果によると、

心理学のトップジャーナルの論文を対象とした研究において、再現性が認められたのは4割程度だったと言われます(5%有意水準)。

(心理学の中でも分野によって再現率は異なり、社会心理学系では25%、認知心理学系では50%程度)

 

また、Natureに掲載された記事によると、

2011年の製薬会社バイエル社(ドイツ)の内部調査によれば、

同社内で進められていた67のプロジェクトのほぼ3分の2で、

関連のある「前臨床研究」の結果が実証できなかったことも報告されています。

Nature (2013-08-01) | DOI: 10.1038/500014a

 

【再現性が低いのは当たり前】

薬物効果、人間の心理と行動、生体システムに関する理論を

同じ条件で合理性、論理的で再現性(普遍性)を証明することは、

実際不可能なのです。

 

なぜなら、「同じ条件」の人間や生物なんて厳密には作れないし、

論理や合理性を調べようとしても、生物に対しての一定の刺激による結果は、

様々な環境要因(文化、家庭、地域、職業、学歴、人種、風土、気候、性格、興味、遺伝的要素、感受性、生活習慣など、刺激に対する取り組みの設定、実験の意図...etc)に影響されます。

 

AT界隈では有名な、腰痛に対するATの有効性についても、

BMJ 2008; 337 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.a884 (Published 19 August 2008)

この論文の条件として、STAT(英国AT協会)認定教師が1対1の24回のレッスン(または、6回のレッスン+エクササイズ)の設定で、

日本の多くのAT教師はそのような形のレッスンをしていないし、

NHS(英国の国民健康サービス)の一環で施行されるという設定で、患者のレッスンに対する信頼度や態度も影響されているだろうし、

腰痛の起こる文化環境や遺伝的な特性も異なるし、

日本の土壌で同じ条件を作ることは難しいでしょう。

 

そもそも、各々のAT教師の質や経験値が結果に大きく影響することも考慮に入れるべきでしょう。

 

【科学的検証から何を読み取るのか?セルフフルネス(AT)の立場】

では、セルフフルネス(AT)の取り組みの中で、

科学的検証、学術論文から何を得るかというと、

前提条件、物の捉え方、シナリオ、どういう風に捉えると参考になるか、

自分の今までの知識体系、記憶、経験、パターン、など、

「自分の持っている全て」に照らし合わせて、意味づけ、位置づけをしていきます。

 

つまり、自分にとって、学術的知見がどういう意味を持つかを

自分のバランスや客観性を使って取り組んでいく作業をします。

 

学術論文に振り回されるのではなく、

自分の「客観性」を育てる活動のために、

科学的知見を吟味します。

 

ネットを見ると、

「医師監修による」(TACのHPでも書いている!自分のこと!笑)とか

「専門家が言っている」

というとちょっと信頼しようと思うかもしれませんが、

「本当の自分」を介して(Reasoning)検証することからしか

自分にとっての本当の位置づけは出来ないのです。

 

【AT界のエビデンス心棒の末路】

最近、AT界では、科学的にATの有効性を証明しようと試みたり、

限られた科学的知見を知ることで、ATの信頼性を高めようとする人が多くなってきました。

科学的情報を自分に取り組んでいくこと自体は、外の世界の情報をアップデートするには大事なことですが、

エビデンスを極端に心棒すると、自分の客観性を疎かにし、歪んだ認知を生み出してしまいます。

エビデンスの信頼性の評価は、私達一人一人に委ねられています。

(実際、学術的なエビデンスレベルで見ても、ATを科学的研究対象にしている「専門家」の意見などは、エビデンスレベルとしては最下層に位置します。)

 

ATの信頼性は、他人の作った情報に左右されるのではなく、

自分自身の「ATに対する取り組み」から、自ずと価値や真実を見る客観性が養われる

という立場からの発信をするAT教師がもっと増えることを期待します。

 

私自身、医師であり、職業柄、客観性はとても大切なのですが、医療活動一つをとっても、

論文などのエビデンスを踏まえた上で、医療者としての経験と患者さんの状態、環境、患者さんの価値観などを総合して治療選択することであって(EBM:Evience Based Medicine),

最善の臨床データを集めて治療法をマニュアル化することではないのです。

「人間」という複雑系を扱うからこそ、

「人間」の視点で、複雑な条件を考慮しながら、

最大限に自分を使った「バランス感」や自分の都合だけではない「客観性」

が大切なことを強調する立場にいます。

医師は、一人の人間として、「病気」を見るのではなく、「人間」を見るのです。

(実際の医療でこれがどれだけなされているかは別として、、、、苦笑)

 

この観点からも、医療技術をAIに任せられる部分と人間の経験値に委ねる部分を線引きできる客観性を養う人材の育成、医学教育が必要とされている時代にあります。

 

AT教師としても、「人間の機能」を扱うからこそ、

合理性や普遍性を、もっと自分の「人間の機能」から見出す態度を発信していく人が増えたらと思います。

 

私達は、「専門家」や「〇〇職」である前に、人間です。

自分の「人間の機能」を最大限に活かす生き方が標準になる取り組み、

これが、セルフフルネス(AT)です。

(あああ、今日も熱かった!笑)

 

新入生募集

東京アレクサンダーセンターの教師養成クラスでは、2024年4月からの生徒募集(2名)しています。

 

《若手教師による初心者のためのATトライアルレッスン生募集》

 

詳しくは、新規改訂したホームページをご覧ください!  

Tokyo Alexander Centre | アレクサンダーテクニーク 教師養成クラス (tac-self-fullness.net)

 

【ウィークデーモーニングクラス(月火水金曜日)】(9:30~13:00)

3月、4月の開校日は

 

3月  4  5  6  8

   11 12 13 15

   18 19 休日 22

   25 26 27 29

4月          12

   15 16 17 19

   22 23 24 26

      30

 

《福岡での個人レッスン》は、2024年3月17日(日)、18日(月)です。

(福岡の予約、お問い合わせは、メールで、 <uzumaki@hya.bbiq.jp> にお願いします。)

 

3/17(日)3/18日(月)稲田祥宏の個人レッスンin福岡 – JATS 日本アレクサンダーテクニーク協会 (alextech.net)

 

いずれのクラスの予約、ご質問は、すべてメールにて、

yoshiinadabsn@gmail.comにお問い合わせください。 

 

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