がん免疫療法ってなに?どんな種類があるの? | よろずクリニックのブログ

よろずクリニックのブログ

面白い医療ネタ、ためになりそうな情報を発信していこうと思います。

先日、統合医療でがんに克つという専門誌に記事を依頼され、詳細にがん治療、がん免疫療法についてまとめましたのでこちらでもアップします。

がん免疫療法は様々なものがありますが、一体どんな治療が自分に合っているのか、どのような作用があるのかなどわかりやすく解説していきます。

 

実臨床に入った最新のがん免疫療法

自浄作用を最大限に生かす免疫療法の臨床

 医療法人医新会 よろずクリニック 院長  萬 憲彰

 

 はじめに

今回の特集では、人体の免疫を最大限に生かすための実臨床におけるがん治療の考え方と、その手法等を解説したいと思います。

サブタイトルにあえて「自浄作用」と書いたのですが、組織における自浄作用とは、組織内での悪をその組織が自ら防ぐことを意味します。これこそが標準治療で最も苦手とし、解決できない再発転移がんへ対する解決法なのです。

もちろん標準治療は、その特徴からステージ初期のがん(多臓器や血行性、リンパ行性な転移を認めないもの)には最も効率的な手法ですが、いったん多臓器転移などが起こった場合にそれを完治させるのは非常に困難です。

では、どうすればその問題を解決できるのか。標準治療に最も欠如した考え方は患者さん自身の免疫を使うという概念です。抗がん剤は一時的にがんを縮小することはできても必ず耐性が付き、患者さんの免疫を落とすことから全身状態を悪化させます。せっかく標準治療に入った免疫チェックポイント阻害も、奏効率が低いのは根本的に免疫についての考え方が欠如しているからだと思っています。まずはそこから述べたいと思います。

 

正しい免疫チェックポイント阻害薬の使い方

PD-1、PD-L1阻害薬などの免疫チェックポイント阻害薬が効果を発揮するには⑴細胞障害性T細胞ががん抗原を認識した状態でがんのところへ集まっていること。⑵集まったリンパ球が十分な数存在することが重要です。

最近最も注目されているプレジション医療、がんゲノム医療の中村祐輔先生(元がんプレシジョン医療研究センター所長)のコラム『プレシジョン医療 〜遺伝子と免疫でがんを治癒に導く』でもこのように解説されています。(図1)

免疫チェックポイント阻害薬は、免疫の攻撃に対抗するがんの防御力を抑え込もうとするものです。ただし、図1のように体内にリンパ球が少ない場合は、薬剤によってがんの防御力を抑えても、バランスは攻撃側優位にならない。(がん治療の現場から:中村祐輔医師コラム第一回より引用)

最も重要ながん免疫サイクルについて

先ほど述べた⑴についてはがん抗原の放出が鍵となってきます。私がいつも強調しているのが「がん免疫サイクル=アブスコパル効果」ですが、この(図2)で説明すると①となります。これを免疫原性細胞死(immunogenic cell death)といいますが、これが可能となるのが放射線治療、光免疫療法、アドメテック温熱治療、低用量抗がん剤治療などです。なるべく患者さんのリンパ球数を減らすことなくがんを壊すことができれば②の樹状細胞(抗原提示細胞)へ指名手配(抗原提示)できるのです。

最近標準治療でも注目されているのが放射線治療+免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせですが、正に理にかなった方法だと思います。

免疫療法を扱う一部の医療機関では②樹状細胞療法に特化した治療を行っています。具体的な例を挙げるなら自家がんワクチン療法、WT1樹状細胞療法、ネオアンチゲン樹状細胞療法です。それぞれ簡単に解説します。 

 

自家がんワクチン

自家がんワクチン療法は今回の特集でも寄稿されている大野忠夫先生が理化学研究所で開発され、現在は筑波大学ベンチャーのセルメディシン株式会社で行われている治療法です。

手術で切除された組織はホルマリン固定かパラフィンブロックとして保管されますが、それらの組織からがん抗原を取り出しワクチン化したものを患者さんへ皮内投与し、抗原提示することで自浄作用を働かせるのです。

この治療法のメリットは患者さん自身のがん抗原を用いるので特異性が高いこと、一生に一回でよいことや、成分採血や培養が必要ないので費用対効果が優れていることです。あえてデメリットを挙げるとすれば、がん抗原が何らかの原因(時間的変化、抗がん剤治療など)で変わった場合は無効なこと、手術してある程度のがん組織がないと作成できないこと、切除した病院へ組織をもらうための手続きが必要なこと、樹状細胞を作成しているわけではないので患者さんの現状の免疫状態によっては効果が出にくいことなどでしょうか。

医療機関側としては再生医療ではないことと、成分採血が必要ないので導入はかなり容易なこともメリットです。

 

WT1樹状細胞療法について

WT1樹状細胞療法は大阪大学の杉山治夫先生が開発された治療法で、がんの共通がん抗原であるWT1を樹状細胞へ教えて患者さんのリンパ節周囲へ皮内投与する治療法です。この治療は大阪大学と和歌山県立医科大学でも治験が行われ、抗がん剤と比較してはるかに上回る結果がでています。(図3)

メリットは手術不能の再発進行がんでも投与可能なこと、成分採血を行い患者さんの樹状細胞を培養し多量のWT1を認識させた樹状細胞を直接体内へ入れるため抗原単独よりも治療効果が出やすいこと。デメリットはWT1という抗原に反応しない場合は治療効果が期待できないこと、自家がんワクチンに比べると成分採血と培養が必要なため高額になってしまうことでしょうか。

医療機関側としても再生医療の認可取得と導入コストがかなりかかります。しかし、すい臓がんは切除不能なことが多いので、筆者の診療ではすい臓がんには積極的にこの治療を用いています。

 

ネオアンチゲン樹状細胞療法について

ネオアンチゲン樹状細胞療法は中村祐輔先生が開発に携わっており、ゲノム検査を用いてがん抗原(ネオアンチゲン)を同定し、それを樹状細胞へ認識させる方法です。この治療を筆者は扱っていないのでメリットデメリットは述べませんが、非常に面白いのが国内有数のがんセンターや大学病院でこぞって取り入れているプレジション医療のトップである中村祐輔先生が、がんセンターの腫瘍内科医が最も嫌っている自費の免疫療法を積極的に行っているということです。

 

免疫療法の歴史

ここで免疫療法についてわかりやすく解説します。1970年に開発された丸山ワクチンなどは、第一世代の免疫療法で主に免疫賦活(リンパ球活性を適正化)する効能が期待できます。結核患者にがん患者がいないということや、結核患者の減少後にがん患者が増加してきた歴史から、弱毒化し抗原性を持たない結核菌を投与することでがん予防などに使われるようになりました。

(図5)

特にBCGワクチンは膀胱がんの再発抑制のために膀胱内へ注入する方法が標準治療となっていることでも有名です。

第三世代は血液中のリンパ球を採取し培養、活性化することで免疫を活性化することを目的に開発され長らく使用されてきましたが、抗原性がない場合Tリンパ球はがんへの攻撃ができないという弱点から最近のトピックは第四世代の樹状細胞療法へ移ってきています。

樹状細胞療法にも先に述べた自家がんワクチン、WT1樹状細胞療法以外にも、直接腫瘍内へ打ち込んで抗原認識させるHITV療法などがあります。当院でも樹状細胞を培養するために血液中の単球の成分採血を行うアフェレーシス機器の導入を行いました。

(写真1)

分子標的ワクチンについて

さらに最近では分子標的ワクチンというB細胞へ作用してHRE2へ対する抗体を体内でつくる治療も出てきています。HER2は細胞の増殖・分化に関わる受容体チロシンキナーゼであり、同じ受容体チロシンキナーゼファミリーに属するEGFR、HER3、HER4とヘテロダイマーを形成することによりシグナル伝達経路において主役を演じます。

このHER2遺伝子に増幅が起こるとシグナル伝達経路が活性化し、がんの浸潤・転移が促進され、予後が悪くなります。食道がん、胃がん、乳がん、膀胱がん、大腸がん等多くのがん種でHER2遺伝子の増幅がみられます。
 このようなHER2の機能を阻害するとがんの抑制効果が期待されることから、HER2を標的とした分子標的薬であるトラスツズマブ(ハーセプチン)やペルツズマブ(パージェタ)が用いられていますが、 複雑な投与方法、副作用、耐性、価格等の点で問題がありました。このワクチンは体内でその抗体が生成されるので、副作用がほとんどなく耐性もできにくいという特徴があります。

(図6)

NKT細胞標的治療について

最も新しい免疫療法がNKT細胞標的治療で、こちらの治療も理化学研究所で開発、先進医療として千葉大学で治験がおこなれ抗がん剤と比較して優位に生存期間を延長しています。

(図7)

この治療法はリンパ球中にごく少量しか存在しないNKT細胞にα-GalCerという物質を樹状細胞を用いて結合させることで、獲得免疫系、自然免疫系を同時に活性化、さらに免疫チェックポイントに作用しがんの免疫抑制を解除するという特徴があります。

1クールの投与で9カ月以上の効果が期待できることも利点であり最も進化した免疫療法かもしれません。

これら以外にも標準治療へ導入されようとしている免疫治療もいくつか出てきており、今後のがん治療の主役は間違いなく「がん免疫サイクル=アブスコパル効果」となっていくでしょう。