(147)人の命には値段がある
以下は愛読する嵐山光三郎著、『死ぬための教養』からの孫引きです。
山本善明さんは、1937年生まれ。60年に日本航空に入社後、1962年から法務担当としてニューデリー事故、モスクワ事故、クアラルンプール事故など二十三件の航空事故処理に携わり、賠償問題も担当。そして、「逆噴射」で有名な82年の羽田沖事故の処理も手がけた、その道のエキスパートです。著書『命の値段』(講談社+α新書)の「はじめに」にはこうあります。
「『人の命には値段がある。誰でも簡単にその金額を算定することができる』
こういう言い方は、人の命の尊厳に対する不遜な振る舞いとして、多くの人々の反感を買うことだろう。<中略>
しかしその一方で、命には値段があるのである。」
何歳で不慮の死を遂げると賠償額はいくらになるかということが、こと細かく載っている、具体的で便利な本です。
「命の値段」のサンプルをいくつか見てみます。まず給与所得者の算定例。四十五歳大卒男子、一家の支柱の人ですと、九五七〇万~一億二一三一万円プラス弁護士費用(以下同じ)となります。六十五歳大卒男子となると、五三七三万~六四二七万円。
次は事業所得者のケース。四十二歳男子、すし屋経営、妻および子二人の場合は、七三七五万円から一億三八四万円、それだけかかる。
続いて主婦。四十五歳大卒専業主婦だと、五〇四七万~六四六四万円。
それから学生が死ぬとどうなるか。例えば、二十歳男子大学生。五九六二万~七六〇六万円となっています。
それと同時に、ここにはいろいろ便利な表がありまして、命の計算をするのには、ライプニッツ式係数表というのと、ホフマン式係数表という表があるのです。それから、年齢別平均余命表というのが出ています。私(嵐山光三郎氏)は六十一歳ですので、男六十一歳の平均余命は二十・一歳。だからわたしは、平均で言えば、八十一まで生きるわけですね。ちなみに五十歳の男性の平均余命は二十九・三七歳。これを合計すればいいのですから、七十九歳まで生きるということになる。これは男女別の表です。
次に何歳から何歳まではいくらかという学歴・年齢区分別の平均年収表があります。大卒の男子六十歳から六十四歳までは、平成十一年は七三三万円。六十五歳以上になると、七〇九万円。これは現実的にとても役に立つ本です。
こういった例を紹介する一方で、著者の山本さんは「高額の命の値段は『絵に描いた餅』」であるという現状にもふれています。現実に、この手の本のほとんどは、被害者の側から書かれています。こんな事故に遭ったらこれこれの補償金がつく、と。
ところが我々は、車を運転することも多いわけで、いつ自分が人をはねて殺してしまうかも知れない。そうなった場合、一億円、二億円という賠償額が裁判所で算定されても、(任意保険など十分な手を打っておかないと)とても払えないので、弁護士を頼んで自己破産という手を使う。結局、被害者のやられ損という現実がある。では実際にはどうしたらいいかとの問題提起をしているものです。
遺産がない人ほど、遺言状をチャント書いておいたほうがいい
私(嵐山光三郎氏)はまだ遺言を書いておりませんが、六十一歳になったので、そろそろ書こうと思っています。そして、その参考となるのは、大東文化大学法学部教授・小野幸二さんによる『やさしい遺言のはなし』(法学書院)です。目次を見ますと、「遺言とは何か?」「遺言書は実際どうつくるのか」「どんな場合に遺言をすればよいか」「遺言の効力」「遺言の事故とトラブル」、それから「遺産にかかる税金」と章分けされており、非常に、具体的にかつ詳しく書かれている手引書です。
土地や財産をたくさんもっている人はいいだろうけど、自分はそんなに貯金もないし、家だって大したものはないのだから、遺言なんか書かないほうがいいと思っている人がほとんどなのですが、法律専門家に聞いてみますと、実は財産がないと思っていても案外あるもので、例えば定期預金、郵便預金が三百万あって、それから自分の通帳に二百万あって、ローンで買った三十坪の家があったりする。
そして子供が二、三人いたりした場合、その遺産が少なければ少ないほど、後の争いはひどいものになるわけです。大金持ちのほうが争いになると思われがちですけれども、むしろごく普通の生活をしている一般のサラリーマンのほうが大変だというのが現状です。遺産がない人ほど、遺言状をちゃんと書きましょう。筆者のお勧めは「公正証書」遺言でして、公証人役場に出向き高所人に書いてもらうものですが、トラブルが少ない。たしか普通の遺言書だと開封前に家庭裁判所でチェックして貰わないと無効になりますが、その必要もありません。
引用図書:『死ぬための教養』嵐山光三郎著 新潮新書 2003年