(142)効果絶大「アスピリン」 | 江戸老人のブログ

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(142)効果絶大「アスピリン」

 

 アスピリンの化学名は「アセチルサリチル酸」というそうだ。およそ110年前にドイツ ・バイエル社で造られた薬で、特許 はすでに消滅したから、誰でもつくれる。
 アスピリン剤の標準的なものは、約三〇〇ミリグラム含有の錠剤だ。アセチルサリチル酸を有効成分とする薬の生産量は、世界で年間四万五千トンに達した。世界の全人口を六十億人とすると、一人あたり平均して一年に二五錠のんだことになる。ハリウッド映画などを見るとアメリカでは万能薬として二日酔いのときでさえアスピリンを服用するらしい。

 

 110年間、つねに薬の王座にあったとはいえないが、110年分の実力と特徴を備えている。もともと、アスピリンは消炎(炎症を治す)、鎮痛(痛みをとめる)の薬として用いられた。ところが1970年代に入って、心筋梗塞や狭心症、脳卒中に効くことがわかった。さらに八〇年代に入り、大腸ガンをはじめとするガンにも効くと、動物実験や臨床試験、あるいは疫学調査の報告が相ついだ。
 二十一世紀の初めには、アルツハイマー病、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、糖尿病、妊娠中毒、歯科疾患、不妊などにも効果があるのではないかと、研究が進められている。


 六〇年代まで、アスピリンは心臓に害があるのではないかと疑われた。ところが反対に心筋梗塞の予防や再発防止に効くと判明した。「ある薬が効くかどうか」の判定はかなり難しい。また、予防薬には、一次予防薬と二次予防薬があるそうだ。一次とは健康な人に対する効果であり、二次とはすでに病気になったが「再発を防ぐ」ための使用である。

 アスピリンを健康なアメリカ成人男性医師二万人以上に投与して、結果を調査したところ、服用を続けた医師たちの44%が心臓疾患にはならなかった。複雑なところを簡単に言うとおよそ半分の発病を予防したという。「半数を予防」というのは大変な効果である。研究が進むうち、アスピリン成分が人間の血液の血小板の凝固を邪魔するためとわかった。複雑だから詳細は書けないが、おおむね100ミリグラム以下が適量らしい。多すぎるとかえって効かないという。(どうも80mミリグラムがいいらしい)。

 

 実は今回の一冊を書かれた【平澤正夫】氏は1982年に手術を受け、人工心臓弁をつけているそうだ。ヒトには免疫があるから侵入者を撃退しようとする。このため血液が人工弁にふれると凝固しやすいのだという。凝固した血液が体内をかけめぐると、血の固まり、つまり血栓が血管を詰まらせることになるので怖い。もしも脳の血管がつまると脳梗塞になり、心臓だと心筋梗塞となり一命にかかわる。これらを防ぐため、平澤正夫氏は医師から)バッファリン(アスピリンの商品名)を処方された。したがって氏はアスピリンとは縁がきれない。

 アスピリンは比較的副作用の少ない薬である。それでも副作用ゼロとはいかない。個人差があるが、幸いにも平澤氏には副作用の兆しがないので、無事のみ続けているという。それでも大腸の検査でわずかな血便を指摘されたという。
 氏は日本で「アスピリン(商品名・バッファリン)」に対する正確な知識が不足していると感じ、『アスピリン企業戦争』(ダイアモンド社)および『超薬アスピリンで成人病を防ぐ』を著し、また『ジ・アスピリン・ウォーズ』を翻訳・出版した。
 
 本来は止まるはずの出血を止まらなくする「凝血防止作用」が医学や薬学の研究テーマにとりあげられ、アスピリンが「血小板のもつ凝血作用」をおさえることがわかり、アスピリンは従来の消炎解熱鎮痛効果に加え、抗血小板薬として、心筋梗塞、狭心症、脳卒中に対してもっとも重要な薬とわかり、汎用の道が開かれた。

 

 日本の厚労省は、消炎解熱鎮痛剤としてアスピリンを承認していたが、「抗血小板薬」としては認めていなかった。適外使用の承認は新薬と同じだからとんでもない費用と労力がいる。アメリカでは1984年に承認されていた。そして日本では2000年にやっとアスピリンを抗血小板薬として認めた。もっとも製薬会社の利益はゼロ(本当はマイナスだろう?)と推定される。それやこれやで、予防効果は絶大だったのに十五年ほど遅れた。


 しばしば健康食品の広告で、ドロドロの血液は病気になると訴え、サラサラ血液がいいと訴えているが、事実かどうかは別として、アスピリン80ミリグラムのほうが優れているそうだ。
 日本ではアスピリンへの理解がゆがんでいると著者の平澤正夫氏は説く。抗血小板薬としての効能がなかなか認められなかったのは、実はアスピリンがあまりにも安すぎたためだった判明する。
 

 薬の価格は保険で定められており、平澤氏が使うバッファリン(アスピリンの商品名)一錠の薬価は六円四十銭である。たいていはこれを二日に一錠のむので、一日分の薬価はたった三円二〇銭である。平澤氏は医学関係者に対し憤慨されているが、筆者は安すぎて商売にならず、かえって円滑な医療システムを妨害していると感じた。高価すぎる薬価は問題だが、あまりに安価で儲からないシステムにも問題があるだろう。誰でも生活を護らなければならないから、経済は合理性が大事で、どこかで「折り合いと工夫」が必要だろう。

 

 アスピリンの薬価はおそらく最低だろうという。薬価には一日に一万円を超えるものも珍しくない。たとえば、肝臓ガンに効くとされる注射薬の【スマンクス】は一本が八万五千円以上、一日に換算すると三〇〇〇円以上となる。免疫抑制剤はもっと凄い。腎臓移植した患者に投与される【シクロスポリン】という薬は一日量の薬価が一万四千円する。それに比べると、アスピリンはタダ同然なのだ。
 

 抗血小板薬として【パナルジン】などがよく使われるが、薬価はアスピリンの百倍に近い。またアスピリンに比べ副作用が強い。アウトである。つまりなるべく高価な薬を使いたいのが医師、製薬会社、全体を見守る厚労省のはずだが、アスピリンは「スーパー・ドラッグ」といわれるほどの効用が再発見されたのに、「儲からないから困り者」とされ、不当な扱いを受ける。

 

 話が変わるが、筆者の友人はアスピリンを極めて少量、自分で五年ほど服用し続けている。毎年の検査では血圧、血糖値その他、すべて正常と自慢していた。まあ、もともと頑丈なのだろうけど。

 副作用もあり、代表的なものが“胃壁”への炎症を引き起こすことだ。また胃腸の検査の際は服用してはいけない。胃腸内壁の出血が止まりにくくなる。胃ではとけずに腸で溶ける工夫がされたものがいいのだがなかなか入手できない。
 

なるほどという使い方に、エコノミー症候群防止がある。あれも血栓による病気のひとつだから、国際線に搭乗するときや地震災害などクルマで眠るときなどバッファリンを少量服用するといいそうだ。ことは健康に関することなので、すべて自己責任でどうぞ。この情報をご紹介しますので、後はご自分で情報収集を願います。

 

ちなみに、アスピリンはピリン系の薬ではありません。ピリン系がダメな方でも大丈夫。信用できない方はググッて見てください。

   ご参考までに http://www.nms.co.jp/uso/uso36.htm



引用図書:『超薬アスピリン』平澤正夫著 平凡社新書刊 2001年