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「葉は子子孫孫のため、実は五穀豊穣のため、根は相利共生のため。」

亡き母が、僕が農業をやっている事を知った時、おぼろげに覚えていた言葉を僕に告げた。

母は農家の娘であった。おそらく、その母が祖父から聞いた言葉なのだろう。農業をやるためには、とても大切な言葉だと感じていたらしく、世間話でもするように、ポツリと吐き出した。

その言葉の意味は、僕にはすぐには分からなかったが、何が大切なことを僕に伝えようとしていることは分かっていた。

農業を始めて10年ほど経ったとき、収量があがらず、すっかり実験畑化していて、兼業の収入に頼り、道を見失っていた僕は、ふとこの言葉の意味を考えてみた。

「葉は子子孫孫のため」

子子孫孫のためなら種と考える方が自然である。だからこれは間違いではなかろうかと最初は思った。

だが、考えてみれば、葉を落とすことで、植物は土壌の表面を守る。種が落ちても、紫外線が当たったままでは発芽しない。だから、葉を落として、種を太陽光から隠す。

しかも、葉は炭水化物やタンパク質が豊富である。この葉が分解することで、植物は炭酸ガスと水や窒素を生み出し、さらには有機物として、多くの虫やバクテリアの餌となる。

分解された後はミネラルの塊となり、土に還って子孫のための栄養となる。なるほど、確かに葉は子子孫孫のためだ。

「実は五穀豊穣のため」

これはストレートに伝わったかのように思えた。実がたくさん成れば五穀豊穣である。

だが、そんな単純な話ではないだろうと思った。なぜなら「ため」と書かれているからだ。五穀豊穣のためには実が必要だと言っている。どういうことだろうか。

僕はこう解釈した。実の中にはたくさんの種がある。種もミネラルの塊である。この種をたくさん落とすことで土壌が豊かになり、かつ種がたくさん芽吹いて、五穀豊穣となる。

種をたくさん蒔く植物が繁茂すればするほど、その地の土壌は豊かになり、それが五穀豊穣に結びつく。おそらくそういうことなのであろう。

「根は相利共生のため」

最後のこの意味がなかなか分からなかった。これは一体何を意味するのだろうか。

僕は根の動きについて調べた。根は一体何をしているのだろうかと。そして、色々な事が分かった。

根は光合成で作った糖を表面から排出している。この糖を求めてバクテリアたちが集まってくる。さらには、根は役割を終えると、土の中で虫たちの餌となる。虫たちは根を食べて、土の中のミネラルを作り続ける。

そうか、根は土壌の中のバクテリアや土壌動物たちを育てているのだ。つまり、バクテリアや虫という生命体との相利共生のために一生懸命働いているのである。だからこそ、植物は生長することができるのだ。

そして、この言葉の全体の意味がわかった。つまりこういうことだ。

農業をするなら、植物の葉も実も根も大切にしなくてはならない。それが作物の残渣であろうが雑草であろうが、全ては畑に戻さなくてはならない。

作物の身体全体が、土壌を作り、共生する生き物を生かし、たくさんの種をつけて豊かな収穫を約束してくれるのだと。

それに気づいてからの僕の農業は、一本道になった。残渣も雑草も枯葉も種も、全てを使って無肥料栽培。必要なものは必要な場所に還す農業である。
 
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