日本語学校の「現場」と「営業」 | 管理職日本語教師の、相当深~いつぶやき。

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私たちの可能性は、こんなもんじゃない。

例えば一つの企業の生産部門と営業部門。

生産部門が製品を生産し、営業部門がそれを宣伝して、売る。



この二つの部署、意見が対立することしばしば。



生産部門は

『自分たちがいいものを作っても、営業がヘボだから、モノが売れず儲からない。』

と言い、対する営業部門は

『もっといいモノを作ってくれないと、営業のしようがない。』

と嘆く。


日本語学校にも同じように現場でいいもの(授業)を作り出す仕事をしている教務部と、それを宣伝して売り、学生を確保する学生募集の営業担当がある。


さっきのボヤキを日本語学校内のモノに置き換えるとこうなる。


営業担当は

『もっと他の学校とは違う、特色のある、宣伝になりそうな、面白い授業はできないの?いい先生、力のある先生をそろえて、実績を出してくれないと、宣伝のしようがないから、学生なんて集まらないよ。』


一方、現場の日本語教師は、

『いくらいい授業しようと思っても、素材が悪かったら、何やったって無駄。

全然勉強する気のない、稼ぎ目的の不良外国人連れて来て、実績を出せっていう方が無理でしょ。

それにいい先生をそろえろって言ったって、こんなに給料安いところに、いい先生なんか来てくれるわけないし、昇給もしないんじゃ、力をつけた先生から他校に取られちゃうよ。』


そして解決しないまま、不毛な夢のない組織が永遠に続くのである。



一般企業だったら、こんなふうにモメてる時どうする?

多分トップが出てきて、公平にジャッジするんじゃないかな?


例えば社長が、営業成績を見て、営業部門の弱体化にハッパをかけるかもしれないし、逆に生産効率を計算し、生産ラインのコスト削減に乗り出すかもしれない。

その時の会社の事情、社会事情にあわせて、公平な判断がくだされ、それに合わせて下が動くと思う。



ところがここで、日本語学校の場合は事情が違ってくる。



日本語学校のトップは、たいてい現場の詳細を知らない、ド素人の経営者。

現場の長、つまり教務主任や教務部長が、同時に経営もしているなんていう人、私はお目にかかったことがない。とても珍しいと思う。

つまりド素人が、何の理念も持たずに、簡単に儲けよう、外国人からしぼりとろう、思って日本語学校を始めるわけだから、目も当てられない。

(*詳しくは11月1日にUPした『理念を持たない経営者たち』をご覧ください(^o^)/)



だからトップがジャッジする時点で、もう公平な判断は期待できない。

現場の意見は2割、後8割は事務方、学生募集の担当の味方である。

学生さえ集めてくれば、イコール金になるわけだから、学生募集の方が優遇され、現場は冷遇されるのである。



例えば先ほどのぼやき。営業が



しかも投資した分、すぐに回収したがる。

長い目でなんか見られない。

でもすぐに回収したがるが、教育産業なんだから、そんな月ごとの収支が黒で出てくる月ばかりのはずがない。

中には長~い目で、長期計画でかからなければならないものだってたくさんある。



しかし現場がいくら

「ノウハウを知っているいい講師をそろえないと、高い実績なんて無理ですよ。」

「いい講師には高い給料を出さないとだめですから、お金だってかかりますよ。」

「そんなにすぐには結果なんて出ませんよ。3年は試行錯誤したりして、時間がかかりますよ。」

なんて説明したって、



『それは現場の甘えじゃ!』



と一括されて終わり。



と、ここまでは、私の過去に勤務していた学校の話し。

これらの苦悩を解決するべく、ド素人の全く入らない、その部署のプロばかりでスタッフを固めた、新しい日本語学校を作りたい、という話を今の学校の理事長にされて、現場の長として拾っていただき。去年の1月から新しい日本語学校に勤めることになった私。



現理事長も、この業界に長い人で、

質のいい学校、いい授業をする学校、というものを、ずっと目指したかった、

でも、今までの現場の長は



『そんな面倒くさいことできません。授業するだけで大変なんですから。』

『先生の教育?そんな時間ありません。」




と嫌がり、理事長は質を向上させようとする現場の長に、なかなか巡り合えないでいたらしい。

つまり、われわれ現場で働く者とは逆の立場で、日本語学校を嘆いていたわけだ。



私は特別何か力を持っているわけではないし、最初は現場以外の部署の苦労も知らずに、礼儀もわきまえないで、随分偉そうなことを上に向かって吠えていたから、かなりヤなやつだと思われていたと思う。



でも理事長が私のことを

「珍しく現場に熱い人だ。」

と思ってくれたところから、よくよく話をしてみると、お互いに理念が同じだということがわかってきた。

そしてそのための方法もほぼ同じ。

違う立場から同じ頂上を目指していることがだんだんわかってきた。

だから私なんかを新しい学校に誘ってくださったんだと思う。



でも、私はこれを奇跡の出会いだと思っている。



理事長は私を信頼して現場を任せてくれているから、私も信頼は裏切れない。絶対に教務部での失敗は許されないという覚悟で臨んでいる。

経営の状態も知っているからこそ、無駄な経費は使えない。

少々やりづらい状況でも、贅沢を言わずなんとかしのいでいくことに協力もできるのである。

それに、理事長の実力も知っている。

だから、ちょっとやそっとのことでは負けない、この人についていけば大丈夫という、強い信頼をよせている。



また学生募集は、学生を1名獲得するのに、どれだけの労力を払って、時間を使ってエージェントさんと信頼関係をつなぎ、どれだけの経費を使ってやっと1名学生を獲得できるかを理事長の下で勉強させてもらいながら、わかるようになったからこそ、どの学生にも絶対に満足してもらおうという気持ちが、以前よりもっと強くなったように思う。



どこかの日本語学校で、向こうの国のエージェントに電話をして、

「留学希望の学生がいたら、こちらにまわしてください。」

と、まるで蕎麦屋の出前のように学生募集をしていた学校があったと聞いて、あきれて大笑いしたことがあったが、素人の認識なんてそんなもんである。

まあ、人のことは笑えない。私も理事長の下で勉強させてもらう前だったら、営業を同じように、簡単に考えていた時もあったかもしれない。



逆に理事長の営業サイドも、私たち現場の苦労を知っているからこそ、良質の、まじめに進路を考えている学生だけを獲得してくれている。

そして、受験に必要な数学、総合科目などの特別クラスや、教員養成に必要な実習の場や、学生のための試験対策などの授業、も赤字覚悟で設定することを許してくれる。

実績が出るまでには時間がかかることも承知してくれている。

現教員の勉強会や会議にも、惜しみなく日当を出してくれる。



でもこれは道楽で金を使っているわけではない。

これは先行投資。

だから投資した分、絶対にいい結果を出さなければならない!という気持ちが、我々現場の教師にも起こるのである。



しかし、これがもし現場無視のド素人のトップに、あれもダメ、これもダメと言われ続けながらの状態だったらだったらどうだろう?

同じように、質の向上と、実績作りに熱心に取り組めていただろうか?



いや無理。

まずモチベーションが続かないと思う。

ここまで熱意をもって仕事なんかする気になれなかったと思う。

全てのやる気をそがれて、失意の中でデモシカ教師をやっていたのかもしれない。



そして現在。

投資してもらった分は回収につながっているのだろうか?



ご安心を。



新しい学校ができて1年。

それこそ奇跡のように成長している。

まず1年で定員いっぱい。近く増員申請をして、定員を倍近くに増やす。

新しく立ち上げても、3年は定員を埋められず、50人近くの生徒数をウロウロしている学校をいくつか見てきたし、それがこの業界では普通という現状の中で、まさに奇跡。



「この経営者なら大丈夫」という私の読みは、はずれていなかった。



もちろんこれからもずっと全てが順風満帆に進むとは思っていない。

特にこの業界、世論の影響をモロに受けやすいですからね。

でも、理事長を中心としたこのチームは負けないと思う。



新しい学校をスタートするメンバーが集まった時、理事長が

「私たちは家族です。」

と言った。



同じセリフを、どっかの韓流スターが言ったときは「くさっ!」と思ったが、理事長がそう言った時、不思議とわかる気がした。



で、あなたの学校の現場と営業は、わかりあえているいいチームですか?














『もっと他の学校とは違う、特色のある、宣伝になりそうな、面白い授業はできないの?いい先生、力のある先生をそろえて、実績を出してくれないと、宣伝のしようがないから、学生なんて集まらないよ。』

そしてそれを聞いた、現場無視のトップの判断は、

「よし、じゃあなんか特色あることしよう。

受験に強い学校?

大学受験でいい大学にたくさん学士絵を入れて、実績を出せばいい宣伝になる。

よし、それで行こう!

だから今年国立大学になるべくたくさん入れろ。」

とこうなる。



思いつきはいいけど、そのために何をどれだけ投資しなければならないか、受験体制の強化に何年かかるかなんて、考えちゃいない。

「え?現場の教師が授業さえちゃんとしてれば、結果出すのなんて簡単じゃないの?」

ぐらいにしか考えていない。