ネタバレします。行間を空けるので未見の人はご遠慮いただくか、私の記事を見て観に行くかご判断願います。












この映画を観て、そうかその前触れとして「やるせない当て馬の奇跡」を書いたんだと悟った。
本当に導かれてると改めて感心する。

この映画で己のすべてをさらけ出すようにエマ・ストーンが演じて知らせたかったのは、改めての女性の解放だと思う。

出産間近でありながら投身自殺した女性の死体に、胎児の脳を移植して一人の女性として再生する。

そのフランケンシュタインである女性は、あらゆることを貪欲に吸収し日々成長してゆく。
その中には、性の目覚めとしてのセルフプレジャーも含まれ、やがて知り合う性豪弁護士と駆け落ちして、昼夜問わずセックスの限りを尽くす。

しかし、船旅の中で立ち寄った地域での貧困と赤ん坊の死を見るにつけ、余りの酷さに衝撃を受け、性豪弁護士の全財産を投げ出してしまう。

旅客船を一文無しのために、パリで降ろされた二人。性豪弁護士は絶望し、何もする気が起きないが、エマ・ストーンは娼館で娼婦として働き始める。

その娼館で、男たちの色々な性癖を知りながら、実は人生を深く考察するエマ・ストーン。

娼婦になったことを呪いつつも、やはり離れられない結婚しようという性豪弁護士に、自分を造り出した博士から預かっていたお金を与え、別れを切り出す。

そして、その博士がガンで余命幾ばくもないと知り、ロンドンに戻る。

博士の助手と婚約していたので結婚式を挙げようとするが、自殺した妊婦の夫がそこに現れる。

自殺に至った理由を知りたいエマ・ストーンはその夫の軍人のもとについていく。

そこで、自殺のいきさつを知る。その軍人である夫は、妻や給仕たちを銃をかざしながら服從させる男だった。

そして、その夫は娼婦だったエマ・ストーンの奔放さを奪うために、割礼をさせようとしたのだ。

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割礼という行為こそ、この世の中一番の蛮行だと思う。

少年のそれはまだ分からないでもないが、女性のクリトリスを切除するというのは、ただただ、女性から性感を排除するものだ。
つまり、性の目覚めは自立性の目覚めであるとも男が畏怖していたことを意味する。

実際に幼児の頭で成熟した女体を持つエマ・ストーンは、実験と称して、性欲の限りを何のためらいもなく貪り尽くす。

その娼婦としての行為の中で、世の男達が「哀れなる者たち」だと悟ってゆく。

割礼されそうになるのを逆に銃を奪い、軍人の夫を負傷させたエマ・ストーンは、博士の助手に「進歩させる手術」を提案する。

進歩させるとは、軍人の頭にヤギの脳を移植することだった・・・。

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邦題「哀れなる者たち」、原題「POOR THINGS」登場人物すべてがそうだと思うが、この主人公ベラを哀れなる者と捉えてしまう人たちも哀れなのかもしれない。

社会の多様性が叫ばれているが、未だに男尊女卑の考えを持つ男性が世の中を支配している。

セクハラ、パワハラ、挙げ句の性加害も毎日のように世間を賑わしている。

女性の中にも女性の貞操観念をうるさく言う人もいるし、

「清く正しく美しく」とほざいていた宝塚でさえ、世間と何ら変わらない古い固定観念の収容所だった。

老若男女問わず、人格の自主性を重んじる社会こそが望まれる社会と思うが、それを秩序の崩壊と許さない勢力が少なくないのも現実だ。

女性の風俗が当たり前のように出来つつはあるが、まだまだ戦い勝ち取らなければならない常識、慣習の是正は世の中にごまんとある。

それをジャンヌ・ダルクのように先頭に立とうというエマ・ストーンの気概を強く感じた。2時間半近い映画だが、全然飽きなかった。