キスが好きだという話をしました。キスは科学的に言ってもとても大事なもので、粘膜の接触、唾液を交換する事により、遺伝子が子作りに当たり、適合するかどうかを無意識にも判別している行為なのだそうです。
そういう意味では、あやまちキッスした彼女とは突発的にしたキスであれ、世之介もまったくときめかず、あれ?と思いましたが遺伝子が適合しなかったわけです。
と言うことで、キスはやはりドラマチックにしたいもの。それも人から羨ましがられるラテン系のキッスをね。
夕焼けのお台場の桟橋の突端で、他のカップルがたくさん傍観している状態で思いッきりのキスをしたことがあります。
「世之介イヤだよ~、みんな見てるじゃん」
「気にすんなよ、今から飛びきりのヒロインにしてやるからっ」
桟橋の突端まで彼女を連れて行き、観光船のロープ留めのブイに、前に女を位置して腰掛けた。
彼女の顔を愛おしく見つめながら、ゆっくり唇を近づけ、女の肩を倒した。
「ズルい…。」
口づけしながら、観覧者に目を向けた。女たちは羨望の眼差し、男どもは自分には出来ないという顔で口をポカンと開けていた。
ヨシッとばかりに体位を入れ替え、彼女に目を開けたままキスするよう、強要した。
女は最初は驚き、しかし徐々に勇気を持ち、そして大胆にヒロインになっていった。
「こんなシチュエーションのキッス、二度とないかもね」
彼女とは、その後、燃え尽きるように別れたが、最初は地味な子だったのに銀座の夜の蝶へと変貌し、世之介のとても手の届かないオンナになった。