これもサラリーマン二年生の頃の話。


週末の金曜日に後輩二人を連れて歌舞伎町に繰り出した世之介。

飲みはしたがもの足りず、当時流行っていた覗き部屋へ行くことにした。以前コマ劇場があったところの左真横の位置、そう今はロッテリアがある付近の二階に覗き部屋があった。

女性の人には想像つきにくいかもしれない。今、考えてみてもチープでくだらない空間だったと思う。内容は踊り子さんのステージをコの字型に囲む、人が一人座れるぐらいでティッシュ箱付きの個室があり、郵便ポストの口をもう少し広げた程度の覗き穴から、踊り子さんの踊りを覗きつつロンリープレーに及ぶという風俗だった。

で、その個室に踊り子とは違う女の子がノックして入ってきて、個別にサービスするという趣向もあった。

だが、俺ともう一人の後輩はそのサービスは受けず、ほどほどにして店を出てきた。だが、残りのもう一人がなかなか出てこない。

待つこと20分ぐらいでようやく店から出てきた。

世之介:
「遅かったな、たっぷり楽しみやがって」

ボラれ男:
「あれっ、二人もサービス受けたんじゃないの?」
「俺、女の子からあとの二人が金ないから立て替えてくれって言ってるよと言われて金出したよ」

世之介:
「何だってっ?!」
「そんな事頼む訳ないじゃん。で、いくら払っちゃったんだよ?」

ボラれ男:
「ウッソー、入場料とは別に三人分のサービス料で1万5千円!!」

世之介:
「絵に書いたような阿呆だな。」
「しかし、ボるにしてもボり方があるだろ。これじゃ、まるっきりの詐欺だ。ヨシッ、取り返すぞ!」

というが早く、昔の歌舞伎町裏の交番に駆け込んだ。

おまわり:
「事情は分かったけど、それは民事だから警察は介入出来ないなぁ」

心底ふざけやがってと思ったが想定内ではあったのでこう依頼した。

世之介:
「じゃあ、おまわりさん。交渉に行くので立ち会ってもらえませんか?」

おまわり:
「それなら構わない、行こう」

という事で、おまわり二人を引き連れて覗き部屋の店の前まで着いた。

さぁ、入ろうという時に先ほどのおまわりがまたとんでも無い条件を突きつけてきた。

おまわり:
「店の中の交渉に我々制服が立ち会っては店に迷惑が掛かる。」
「だから、店長をここに連れて来なさい」

俺は頭に血が上るのを必死にこらえた。
(この腐れおまわりがっ!!)

しかし、その言葉に従い店長に、おまわりを外に待たせているからとにかく出てくれとせかし、店頭に連れ出す事に成功した。

おまわりはまさか店長がノコノコ出て来ると思わなかったのだろう。口を開けてポカンというマヌケづらになった。

世之介:
「どんな形であれ、サービスを受けたなら金は払うさ。ただ、俺たちはなんのサービスも受けてない。だから、俺たちの分の1万円は返してもらう!」

店長は、どう返答したものか逡巡していた。

とてもその時間が長く感じられた。

なぜなら、歌舞伎町の一番の中心地だ。おまわりがいて、若いサラリーマンがいて、見るからにチャラい風俗店の店長もいて、なにやら揉めているのだ。なんだなんだと大衆が集まりだした。

やがて、野次馬の群集は俺たちをあっという間に囲んでいった。

そして、そして最悪の事態となった。野次馬の最前列は事の成り行きを他の一般大衆に覗かれまいと、どこからそんなに湧き出したというぐらいのヤクザ、やくざでガッちりガードされていた。

おまけに世之介の後ろのチンピラは、俺を脅すように背中を小突きはじめた。

体じゅうから冷や汗が溢れ出した。もう金なんかどうでもいい、この空間から解放してくれと叫びそうになった時、すぐ後ろの恰幅のいい初老のヤクザがこう店長に行った。

「もういいから出してやれ?!」

たぶん、この店のケツ持ちの親分か何かだろう。ドスの利いてはいるが、よく響く声だった。

チャラい店長はそそくさと店に駆け戻り、レジから鷲掴みしただろう、クシャクシャの一万札を世之介に差し出した。

それを見かねたおまわりが、「困るなぁ店長っ!」と駆け寄るのを背中で聞きながら、世之介はへたりかけている後輩二人を両脇に抱えて、その場から静かに離れる算段を、必死に脳ミソの中に手を突っ込んで考えた。

が、天性の勘が先ほどのチンピラに小突かれた事を世之介に思い出させた。

「まだ安心するのは早いっ!?」
「走れっ!!」

猶予も躊躇もなかった。今思い出してもこの時の決断の早さを自分で自分を誉めてやりたい。

気付いた時、山手線の車中に三人はいた。瞬間移動したと思えるくらいだった…。

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