一向に、受付をする様子はありません。
インフォメーションのパンフを手にとって見たり
ポケットをもぞもぞしたり。
(なんだろう。声聞こえてないのかなあ。)
そんなわけ、ありませんよね。
あきらかに、こちらを意識してる。
(婦長さんに電話しよ)
内線を打とうとしたその時、、、、、、
「あ、あのスミマセン・・・・。」
一歩こちらに体を向けて、俊彦風が声をかけてくれました。
「あっつ、はい、こんばんは」 (挨拶はさっき済んでるっちゆーに)
「えっと、あの、は、、はじめてなんですけど・・・。」
(やっぱり時間外か)
「今日は保険証はお持ちですか?」
「あ、はいこれ。」
ぎこちなく左手で保険証を差し出しました。
右手はズボンのポケットにしまいっぱなし。
(態度、悪いなあ・・・。しかも保険証折れ曲がって、くしゃくしゃじゃん)
「では、こちらに、ご住所とお電話番号を」
(佐藤さんか。)
書きにくそうに左手でなにやら書き始める佐藤さん。
額には脂汗をかいています。
顔色は真っ赤。
「佐藤さん、本日はどうされましたか?御加減悪そうですけれど・・」
さらさらと動いていたペンが一瞬止まりました。
「えっと、、その、、うまくいえないんですけど・・・・」
なんだか、言いにくそう・・・・・。
うちの外来で診察理由を渋る患者さんといえば
①パイプカット
②なんか、かゆい
③なんか、変な感じがする
④なんか、できてる
など、たいてい泌尿器・婦人科関係なんですが。
「あ、わかりました。では簡単にでけっこうなのでこちらの問診表に・・・」
差し出すと、佐藤さんきっぱりと
「いえ、いいんです。あ、あの口で言いますから、せ、先生に」
(だから、どの先生呼んでいいかわかんないから教えてほしいんだけどな)
「わかりました。」
(ま、いいや、カルテ作ったら当直さんに振ろう)
早速カルテを作ります。
「おかけになってしばらくお待ちくださいね」
と、声をかけたものの、佐藤さんはずっと受付カウンターに立ったまま。
なぜか背中が丸まっていいます。
(おなか、痛いのかなあ)
「あ、、、あのう・・・・・。受付さん・・・・。」
「はい、どうされましたか?」
佐藤さん、形相が厳しい。汗がぶわっと出ています。
「大丈夫ですか?すぐ看護婦さんお呼びしますね!」
ううっ・・・佐藤さん視界から消えた!
えっ、と思ったら、カウンターの下にうずくまってました。
婦長さんを呼んでしばらくすると、当直の先生とともにやってきました。
「どうしたの?おなか痛いの?」
必死の呼びかけに、先生と看護婦さんが立てない佐藤さんの
両脇を抱えます。
「さあ、立ち上がりますよ、1,2・・・・」
「ぎゃ~~~~~~~~!!いってえええ!!」
静かなロビーに、佐藤さんの悲鳴。
「どうした??」
奥から当直の技師さんが駆け込んできました。
(あんた、おそいねん。先生の声聞いてでてきたんちゃうん?)
「ちょっと、右手ポケットから出して!」
看護婦さんが佐藤さんの腕をつかみます。
「出しなさい」
先生も、力ずく。
ばっ、と抜けた。
抜けて、すべてが 発覚。(注・看護婦さんと先生だけ)
その後は、静かに佐藤さんと看護婦さんと先生並んで
診察室へ・・・・・。
そろ~~り、そろ~~りと。
(なんだったんだろう。佐藤さん)
興味津々待つ事30分。
『お江戸でござる~、また来週~~~~』
ちゃんちゃかちゃんちゃ~~~~~♪
「あ、婦長さん、さっきの佐藤さん・・・・・」
「うん、今点滴してるわ。大変だったわよ。」
「え、アッペ(盲腸)かなんかですか?」
「ちがうわよお。あのね・・・・・」