その日は、夜診の勤務日でした。
月中旬の水曜日とあり、小児科の外来が無いせいか
ロビーはとっても静か、です。
つけっぱなしのTV音声が響いて。
「チャンチャラら~♪お待たせいたしました、今夜の『お江戸でござる』ゲストは
藤山 直美さんでお送りいたします~」
(あ、8時だ。レジしめよっと)
帰り支度を始めかけて15分ほどしたこと、自動ドアが開きました。
面会時間も過ぎているので、どうも時間外の患者さんのよう。
(え”~今日は早く帰れると思ったのにぃ)
「こんばんは、診察ですか?」
(とっとと受付を済ませてもらったら当直さんに代わってもらおう)
見たところ30前後の田原俊彦風。
きょろきょろロビーを見渡し、チラリと私のほうを見ます。
(初診だな、こりゃ)
なかなか、自動ドア付近からこちらの受付カウンターに近付こうとしません。
きょろきょろ挙動不審に、見えてきました。
私の発するテレパシーを感じたのか、
事務所奥で食事をしていた当直のレントゲン技師さんが
カーテン越しにちょこっと、こちらを伺います。
~以下、テレパシーでの会話。
レ:(レントゲン技師さん)・・・なんだよ、時間外?
私:(そうみたい。だけどこっちの様子伺うだけで・・・)
レ:(お見舞いとかじゃないの?それか入院患者じゃあない?)
私:(いやあ、違うと思う。それよりちょっとでてきてくださいよ)
レ:(今、夜食食ってるからまって。それに、当直交代8時30分やん。)
私:(・・・・・けち)
『ちょっと、源さん、あんたあの町娘の 直美ちゃんから惚れられちゃったんだって???』
『ええ~~あの直美ちゃんがかい??そりゃ大変だあ・・・・・』
俊彦風の男性は、まだ掲示ポスターを見やったりして
なかなか、こちらに来てくれません。
いよいよ、挙動不審に 見えてきました。