その時、付き合っていた男がこう言っていた。
「これから先、俺と喧嘩したら思い出して。
選択肢の中に“別れる”っていう項目を入れないで。
だって、別れるっていう選択肢があったらそれを選ぶほうが楽だから。」
10年程前のことだけど、今でも明確に思い出せる。
そう言った彼の声や彼の表情までも。
もちろん、結婚という契約を結んでいるのか、そうでないのかで付帯してくる諸問題に差はあるにしても、彼が言いたかったのは“心”のあり方だ。
選択肢① 機嫌をとる 選択肢② 謝る 選択肢③ 冷却期間をおく 選択肢④ トコトン話し合う ・・・ 殴りあう ・・・ 体の関係でウヤムヤにする ・・・
どれも面倒だし、積極的になりにくいし、エネルギーが必要となる方法ばかりが並ぶ。
男と女のプライドのぶつかり合いにほとほと疲れてくる。
しかし、ひねくれている私も彼の言いつけは守った。
そうすると、必然的にどれかを選んで実行しなくてはならず、少しずつ男の扱いもうまくなり女として機微を身につけられた気がする。
まだ建設的な選択肢がある間はどうにか別れることもなかった。
そして、5年間一緒にいることができた。
なのにどうして別れたかって?
それは、“別れる”が選択肢のひとつではなく、私の中でたった一つの必然的な決定になったからだ。
もともと、“別れる”は選択肢に入れるものではないのだ。