原題は「Never Let Me Go」
カズオ・イシグロの小説の映画化です。


カズオ・イシグロと言えば、「日の名残り」
お屋敷、執事-とてもとてもブリティッシュな世界を
”もののあはれ”という空気感で包んだ独特な作品。
村上春樹好きとしては、お二人とも喪失感をテーマに
作品作りをされてるなぁと感じます。


だから読後感が哀しいのでしょう。


とか言って私、イシグロ氏の作品は映画でしか知りません。
今回の「私を離さないで」の映画はイシグロ氏自身が
エグゼクティブ・プロデューサーとして制作に参加しているので
小説の世界観を壊さずに映像化されてるのでしょう。



悲しく逃れがたい運命を背負って生まれた子供達の秘密。
田園地帯で外の世界から隔絶された環境にある寄宿学校。
生徒達はみんなクローン
病気になった誰か(たぶんオリジナル?)のために臓器
提供するために存在している命。


ほとんど3回の提供が限度で命を終えていく宿命。
英語では終えていくことを「complete」としていました。
ミッション・コンプリーティツド・・・・



ある日新しく赴任した先生が子供達に彼らの運命を
語るシーンで「自分達の運命を知った上で自分の命に
意味を見出して欲しい、そのためにこうして説明している」と。
学校の秘密を暴露した先生は解雇されて消えます。


イシグロさんはインタビューでこう語っています。
「この作品のメッセージは人生は皆が思うより短いということ。
その中で最も重要でやるべきことは何かということです」




背負わされた運命、
逃れようもない状況、
高度に発展した結果、非人間的・非人道的になった技術
他者の犠牲の上に成り立つ命、
無力感、喪失感


映画の世界が原発による被曝の続く環境で生活せざるをえない
自分達に重なってしまいました。




原発の収束も機械ではできない。
結局、決死隊が強烈な被曝覚悟で設備を設置しに行かなければならない。
クローンがいたらこういう状況で決死隊として送り込まれるのだろう。



主人公三人を演じたキャリー・マリガン、キーラ・ナイトレイ、
アンドリュー・ガーフィールドの好演が光ります。
あなたたちと同じように私達も魂があります、という
クローンの叫びが風にかき消されていくようなラスト。



運命を受け入れて生きるのか、
運命に逆らうのか
♪短いこの人生、大切なものは自由♪と清志郎は歌った。
イシグロ氏が静かに提示するメッセージは心に刺さりました。