宮部みゆき 『模倣犯(一)』 (新潮文庫) | 還暦過ぎの文庫三昧

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 還暦を過ぎ、嘱託勤務となって時間的余裕も生まれたので、好きな読書に耽溺したいと考えています。文庫本を中心に心の赴くままに読んで、その感想を記録してゆきます。歴史・時代小説が好みですが、ジャンルにとらわれず、目に付いた本を手当たり次第に読んでゆく所存です。

 新潮文庫12月の新刊。単行本刊行時ベストセラーとなり、映画化もされて、ブームを巻き起こした作品の文庫化であり、楽しみではあるけれど、全5巻の長大作品だと知って、尻込みをしそうになった。

 公園のゴミ箱から若い女性の右腕が発見されたところから物語が幕を開ける。だが、いくら私的な読書日記と言え、ミステリー作品の筋を追うのはルールに反すると思うので、ここでは主な登場人物の点描だけに留めることにしよう。

 塚田真一。高校生。右腕の最初の発見者。彼は過去に両親と妹を殺害された被害者でもあり、いまは両親の友人であった石井夫妻と暮らしている。

 有馬義男。豆腐店経営。孫の鞠子が失踪して3ヶ月。ゴミ箱から右腕と一緒に発見されたバッグが鞠子の物と確認された。

 前畑滋子。ルポライターの卵。女性の失踪を取材したとき、鞠子もリストアップしていた。事件の様相が濃厚となり、再びライターの血が騒ぎ出して、動き始める。

 武上悦郎。特捜本部のデスク。デスクには捜査の全ての情報が集まるので、全体を見通すことのできる立場である。

 概ね、彼ら4人の周囲で起こる出来事を中心に物語は進行する。そして、そこへボイスチェンジャーの電話。挑戦的な犯人が、ゲームを楽しむかのように、テレビ局や有馬義男に電話をかけてくる。犯行の予告であったり、死体の遺棄であったりと。

 宮部みゆきの文体は軽いし、彼女が語り上手であることで救われるのだが、異常な犯行を扱っているわけで、読んでいて決して楽しい話ではない。それに、彼女は枝葉末節まで饒舌に語るので、女のお喋りに付き合わされているような感覚にもなる。しかし、読み始めればぐいぐいと引っ張られてゆくのは、やはり彼女の才能なのだろう。

 この(一)の最後で、思わぬ事故から犯人らしき人物が明らかになり、天罰が下ったような形で解決したかのように見えるが、その事故の現場にも不審な死体があったし、まだまだ先は長いのだ、一筋縄ではゆかない展開が待っていることだろう。急いで続きを読みたいと思う。

  2006年1月17日 読了