藤沢周平 『彫師伊之助捕物覚え 消えた女』 (新潮文庫) | 還暦過ぎの文庫三昧

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 還暦を過ぎ、嘱託勤務となって時間的余裕も生まれたので、好きな読書に耽溺したいと考えています。文庫本を中心に心の赴くままに読んで、その感想を記録してゆきます。歴史・時代小説が好みですが、ジャンルにとらわれず、目に付いた本を手当たり次第に読んでゆく所存です。

藤沢 周平
消えた女―彫師伊之助捕物覚え

 新潮文庫の文字拡大した改刷版。

 以前、この作品を読み始めて、作品世界の暗さが厭で、投げ出してしまった記憶がある。今回、文字拡大版に気づいたので、再度読んでみたが、暗いとも思わず、むしろ引き込まれていって、一息に読了してしまった。以前のあの感覚は何だったのだろう。

 かつて同心から手札をもらい、腕利きの目明しとして鳴らした伊之助だが、妻の自殺が心の傷となって目明しを辞め、いまは版木の彫師としてひっそりと暮らしている。そこへ、先輩目明しから娘の失踪操作を頼まれ、断りきれずに動き始める。仕事を抱え、なおかつ十手も持たず、制約の多い捜査であり、危険にさらされもするが、次第に娘の失踪の裏に潜む巨悪が明らかになってゆく。

 伊之助のドライでクールな捜査ぶりや、襲撃された際に機敏に立ち向かうアクションが、帯にある「大江戸ハードボイルド」の所以なのだろう。以前のイメージは完全に払拭され、シリーズ3冊を全部読みたくなった。

 2005年4月12日 読了