- 藤沢 周平
- 消えた女―彫師伊之助捕物覚え
新潮文庫の文字拡大した改刷版。
以前、この作品を読み始めて、作品世界の暗さが厭で、投げ出してしまった記憶がある。今回、文字拡大版に気づいたので、再度読んでみたが、暗いとも思わず、むしろ引き込まれていって、一息に読了してしまった。以前のあの感覚は何だったのだろう。
かつて同心から手札をもらい、腕利きの目明しとして鳴らした伊之助だが、妻の自殺が心の傷となって目明しを辞め、いまは版木の彫師としてひっそりと暮らしている。そこへ、先輩目明しから娘の失踪操作を頼まれ、断りきれずに動き始める。仕事を抱え、なおかつ十手も持たず、制約の多い捜査であり、危険にさらされもするが、次第に娘の失踪の裏に潜む巨悪が明らかになってゆく。
伊之助のドライでクールな捜査ぶりや、襲撃された際に機敏に立ち向かうアクションが、帯にある「大江戸ハードボイルド」の所以なのだろう。以前のイメージは完全に払拭され、シリーズ3冊を全部読みたくなった。
2005年4月12日 読了