空せまき坂の花街涅槃西風 四童
花街のひる春にして夜はさらなり
花街の 果て縄飛びの日永かな
囀や辨財天の旗なびく
鍵盤の色をめざして白木蓮
小肥りのあにいもうとや桃の花
母もまた小肥りにして亀鳴けり
中庭を結界として初ざくら
春なれや坂の途中の池しづか
倒木は倒木なりに春を待つ 四童
嘴のつぶやいてゐる春の鴨
春昼の岡目三十二目かな
どの木々もよぢれをほどく春の池
鳥みれば鳥の名を訊く春の池
春の日の布団のやうな家鴨かな
恋知らぬ猫を逆撫で毛づくろふ
春昼やまさに段ボールに仔犬
裸木は春の水面を映しをり
蝌蚪の紐ながながとあり主なし
節分のどの闇も角張つてをり 四童
立春と口に出したる少女かな
宙を切る春の舳先のずんずんと
ガラスから始まつてゐる春の地震
春昼や鰐には長い長い顎
おほいなる日永ガラス屋から木魚
しばらくは種物となり夢を見る
春寒の役立つてゐる二重顎
徒歩ならば春昼叫ぶなら未来
寒の夜の友の日記を訃報とす 四童
祭壇にゆかりの楽器寒九郎
弔辞読む友の白髪や寒さなか
のたまはく百年前の暖炉の木
兜町戦争いまや雪景色
もう聞けぬ「いいかよく聞け」冬うらら
嘘のごと冬の日差しのまぶしかり
【註】
故人ゆかりの楽器が祭壇に左からベース、ギター、アルトサックス。アルトサックスを吹く姿は見たことがなかった。いつ始めたのだろう。ギターはブライアン・メイに触発された故人の自作。ブライアン・メイ作成のギターの指板は百年前の暖炉の木だったと熱く語っていたのが思い出される。宮川總一郎氏の漫画作品『兜町ウォーズ』(自由現代社)では証券会社勤務だった故人がその業務知識を惜しみなく提供。ときにはったりで「いいかよく聞け」と周囲に訓示を垂れたものだった。享年52歳。合掌。
年納めの煤逃吟行は浅草界隈。
おほいなる年の瀬といふふくろもの 四童
そのままのベニヤからなる飾売
仲見世は冬晴れにして日とどかず
太鼓鳴る本堂金輪際師走
水鳥の声をあつめて地蔵裏
マネキンに面と胴ある師走かな
歳晩の手足の長き花やしき
極月の浅草に売る鹿の皮
豆の木句会。土曜の午後を題詠3ラウンド。まったく、人生を捨てた人たちの集まりとしか思えない。
白南風を集めて動くものあまた 四童
恋人を利用してゐる日陰かな
全身が氷菓となりて腋したたる
羅の目にもの見せる腕かな
海の水まじりのからだにて帰る
遅くまで灯りの暗き夏舘
魚となり滑らかである戻り梅雨
丑三つの時計代りの蚊遣かな
誘蛾灯世界の栓を抜きにけり
蓮咲くや超音波にて鳴くけもの
むづかしき氷菓頼んでしまひけり
雲の峰またその上に雲の峰
紺色に身を固めたる夏の都市
まくなぎのやがてまばらとなりにけり
散髪に手抜かりのある夜涼かな
やや早く壊れて来る海の家
トリマーの法則により髪洗ふ
夏の日の想ひ出になき普通の日
立ち並ぶ人のつがひの砂日傘
割箸の詰め過ぎてある夏の夜