『はみ出し駐在記なんでもありの豊かなアメリカの傷んだ社会 Kindle版』(藤澤 豊)

Kindle unlimited対象本ですが、有料でも大いに読む価値あり。

 

 大手工作機械メーカーのニューヨーク駐在員による、1977~80年のアメリカ社会観察日記。

 

 40年近く前の話なのに、最近目立って増えてきた「トランプのアメリカをルポする」的な本と、ほとんど内容が変わりないところにびっくりです。

 

さて本書は、日本人エリート社員によるアメリカビジネスマンの観察記」では全くありません。

 

 著者は高専卒のサービスマン。サービスマンというのは、ほら、会社のコピー機が壊れたときに修理の人が来てくれるじゃないですか。あの人たちの工場設備版、っていうイメージです。

 

 それだけに、著者が日頃から接する相手は、工場で機械を操作する工員や町工場の経営者といったところになります。いわゆるワーカークラスのアメリカ人。トランプ支持層に当たる人たちです。

 

 リベラルで知的でスーツとネクタイ姿のアメリカとは全く異なる、もう一つのアメリカを、これでもかこれでもかと描き出してくれます。

 

 さらにまたこの著者、自他共に認める左巻きのひねくれ者です。

 

こんな人が実際に周囲にいたら、ちょっと困ってしまうような気もしますが、安全地帯から本を通してこの人を見ている限りは、なんだかハードボイルドタッチな探偵小説を読んでいるみたいな感じでいられます。

 

 おっと。左巻き、と書きましたが、決してイデオロギーがかった本ではありません。著者は、そんな浅いものの見方をするには、少し頭が良すぎたようで、右も左もアメリカも日本も、あらゆるものを等しく公平に、ひねて冷めた視線で観察しています。

 

 文章もうまく、この本は本当に、掘り出し物でした。