「海へ」(第71回) | 読むこと考えることその他

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小説「海へ」1-4-H

 

前回までのあらすじ:

電車の中で「たいむぶれっど」という漫画に出会った主人公は、偶々で電車内にいた作者の少女の才能に惹かれる。
少女は出版社に原稿を届けに行こうとして、主人公と少女はしばらく議論をするが、互いに疲れて、主人公は漫画の残りを読み始め、少女は独白を始める。
少女は、自分が少女漫画家になるべきだと気づいたこと、漫画家志望の少女は多いのに、出版社の数が限られていることなどを言う
さらに、少女は「出版社浮遊移動システム」という奇妙な原理を説明し、自分の作品がそのシステムに拾われた運のいい原稿だと言い、なおも独白は続く。

 

第一部

第4章「電話機たちの沈黙、そして喪失」(8)

 

……

ところで、次の原稿を雑誌に載せるとしたら、多大な苦労がともなうことになるわ。

なぜなら、その出版社が次にはどこの地点にあるか、常に経常観測していなければならないから。

わたしが徹夜をして、今とても眠いということは、実は原稿書きのためというよりも、その観測のためなのよ。

そして、わたしは、この地点にあるものと見定めて、この電車に乗ってきたというわけ。

ところが、ここにはあなたがいたわ。

そして、残念ながらあなたは出版社ではないわ。

だから、わたしは、首都に行かなければならないわけ。

なぜって、応募原稿の海が仮想上のものである以上、浮遊移動出版社も仮想のものであるはずで、仮想のものはたいてい首都にあるからよ。

首都というのは、これもまた仮想のものにほかならないのだわ。あなたも、そう思わない……」

 

     *    *    *

 

(続く)

 

わたしが徹夜をして、今とても眠いということは、実は原稿書きのためというよりも、その観測のためなのよ。

(イラストはCiCiAI生成によります)

 

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海へ「目次」

 

「海へ」第1回