小説「海へ」1-2-G
前回までのあらすじ:
主人公は年金制度の手続きに不満を感じて少女漫画を買いに行くが、電車を乗り間違えてしまう。
そこで、128番目に読んだ漫画に心を奪われるが、前半で終わっていたため嘆息する。
そこに茶色の紙封筒を持った少女が電車に乗り込み、主人公に話しかけてくる。
少女は出版社に行く途中だが、場所が分からず、主人公に尋ねることもできないため、座席に寝転んでしまう。
主人公は、少女の言動が、さっき読んだ漫画『たいむぶれっど』の作中人物の言葉と似ていることに気づく。
少女の要求に従うと主人公自身の物語は消滅してしまうため、言い返す。
主人公は結局、少女の要求に従うことはできないと断言する。
主人公は少女の要求に従うことを拒否した。
少女は主人公が何物でもない存在であることを認め、関係がないことを示唆した。
そして、次の駅で電車を降りる準備をするようにと告げた。
第一部
第2章「そして天才は発見されるべくして発見される」(7)
ぼくは、少女の言葉尻にいちいち継ぎ足される〝わかったかしら〟という言葉に、いい加減うんざりしてきた。
その言葉は、了解を要求しているのではなく、沈黙を要求しているのである。
これ以上わたしにしゃべりかけるな、と言っているわけだ。
どのような逆手に出るにしても、その〝わかったかしら〟で否定されてしまうだろう。
だが、ここで引き下がるようなことはできない。
しばらく沈黙してから、ぼくはこう言った。
「ぼくは、あなたの手に持っている原稿を見せてもらうことを要求します。
状況のいかんにかかわらずです」
(続く)
その言葉は、了解を要求しているのではなく、沈黙を要求しているのである
(イラストはBingAI生成によります)