今年8月に一時帰国した時に聴いた終活用レコードその⑨は、Recycled Recordsから1985年にリリースされたChristian Marclayの1stアルバム『Record Without A Cover』である。

 

レコードA面

 

レコードB面 (溝無し)

 

"Record Without A Cover"="カバー(レコードジャケット)が無いレコード"なので、ジャケットは無い。Christian Marclayの意図はジャケット無しで流通させた時に着いた傷によって発生するスクラッチノイズも音楽の要素の一つという事なのだが、Discogsの売り主は傷が付かないようにきちんと保管していたとの事。Christian Marclayの意図には反するが、それはそれで何だかありがたい。

 

このレコードは片面カッティング、私が買ったのはプロモ盤なので、溝が刻まれていない裏面にプロモシールが貼られていた。

 

盤はきれいな状態、ワクワクしながらレコードに針を落とすと何も始まらない。そして盤はきれいなのにスクラッチノイズが聴こえる。"おかしいな?もしかして、ずっとこれが続くのかな?"と思って続けて聴いていると、徐々に音楽が始まって一安心。音楽の中身は他でも聴けるChristian Marclay印のレコードコラージュとスクラッチだ。Christian Marclayは最初からChristian Marclayだったという訳だ。

 

音楽というよりはレコードという"物"を含めてアートと言った方が良いだろう。レコードが実家に届いた時、母から"ジャケットが無いよ"と言われたので、Christian Marclayのコンセプトを説明したら、"アンタが聴く音楽は変わり過ぎててわからない"と言われてしまった。うーん、普通の(?)人から見ればそうかもしれない。

 

Christian Marclayの2ndアルバムはRecRec Musicから1989年にリリースされた『Footsteps』だが、このレコードはFred Astairに捧げられており、足音とタップダンスの音が録音されている。そして、1,000枚作ったレコードはギャラリーの床に並べられ、観客に踏まれた後にパッケージされてリリースされたそうな。もし、このレコードを買って、家に届いた後に実家の母がこのレコードを見たら、"何だかすごく汚れているけど大丈夫?"と言うだろうな。そして、またChristian Marclayのコンセプトを説明したら、また、"アンタが聴く音楽は変わり過ぎててわからない"と言うんだろうな。そう考えると、何だか買ってみたくなるんだな…