"ゼニゲバ"と聞いたら、普通の人(?)はジョージ秋山が描いた漫画『銭ゲバ』が思い浮かぶのではないだろうか?

 

漫画『銭ゲバ』の一コマ

 

そうではなくて、日本が世界に誇れるバンドの一つ、Zeni Gevaを思い浮かべる人は、余程日本のオルタナティヴ/ヘヴィロックが好きか、アルビニ印のサウンドが好きな人だろう。

 

Zeni GevaとSteve Albini

左からSteve Albini、田畑満 (ギター)、KK Null (岸野一之)(ギター・ヴォーカル)、エイト (ドラムス)

 

 

現在のZeni GevaのFacebookのカバー写真

 

 

この2枚の写真はZeni GevaとSteve Albiniの信頼関係がわかるような良い写真だよね。

 

さて、アルビニ印のバンドのアルバムが好きな私でも、実は今までZeni Gevaを聴いた事は無かった。それは私が若かった頃にNux Organizationから1993年にリリースされたKK Nullの『Absolute Heaven』を聴いた時、良さがさっぱりわからなかったからだ。だから当時はZeni Gevaまで手を出さなかった。今の私が『Absolute Heaven』を聴いたらどう感じるのか興味は有るが、KK Nullの昔のアルバムは残念ながらサブスクに上がっていない。

 

Absolute Heaven

 

そんな私が今回聴いたアルバムは、Steve Albiniがエンジニアで関わった初期のアルバム1991年にPublic Bathからリリースされた『Total Castration』、1993年に大好きなDead KennedysのJello BiafraのレーベルAlternative Tentaclesからリリースされた『Desire For Agony』、同じく1993年にNipp Guitarからリリースされた『Nai-Ha』、1995年にAlternative Tentaclesからリリースされた『Freedom Bondage』の4枚のスタジオアルバムだ。

 

1990年代前半のアルバムを選んだのは、その時期にSteve Albiniがエンジニアとして関わったバンドのアルバムのサウンドが好きだからだ。

 

【1991年】Total Castration

 

【1992年】Nai-Ha

 

【1993年】Desire For Agony

 

【1995年】Freedom Bondage

 

私が好きなアルバムジャケットは『Total Castration』と『Desire For Agony』。B級と思う人が多いかと思うが、私はインディーのハードコアなオルタナティヴ/ヘヴィロックのアルバムに相応しいアートワークだと思っている。

 

ところでZeni Gevaのバンド紹介を見ると、よくノイズロックと紹介されている。Discogsを見るとプログロック、ハードコア、ヘヴィメタルとも書かれている。私はジャンルを細分化し過ぎると逆によくわからなくなる人なので、ここはわかり易く説明するなら、上述した通り、ハードコアなオルタナティヴ/ヘヴィロックと言った方がしっくり来るように思う。ノイジーでないヘヴィロックは無いので。Zeni Gevaの音楽を聴いた事が無い人に、Zeni Gevaの音楽を更にわかり易く説明するなら、ハードコアなオルタナティヴ/ヘヴィロックなサウンドのエクストリーム"なまはげ"と言ったらわかり易いかと思う。"なまはげ"とは秋田のなまはげ、"泣ぐ子はいねーがー!"の秋田のなまはげである。KK Nullのヴォーカルはハードコアのグロウルスタイルと言うより、何だか"なまはげ"グロウルスタイルと言った方が、我ながら上手く説明できているように思う。そういうスタイルのヴォーカルは今まで聴いた事が無いので、KK Nullの歌詞を含めたヴォーカリゼーションは唯一無二で、Zeni Gevaの音楽の特徴の一つと言えるだろう。

 

ヴォーカル以外のサウンドはベースレスのギターサウンドの筈なのに重厚でうねりまくっている(のた打ち回るのとは違う)。また、ドラムサウンドは正に爆発しているようなサウンドで、これらは正にSteve Albiniの録音手法の賜物だろう。

 

この4枚を続けて聴くと、『Desire For Agony』が前2作と比べて僅かに音圧が落ちる感じで、ドラムサウンドは前2作の方がよく録れているように感じる。

 

『Freedom Bondage』は音楽の幅が少し広がった感じを受けた。シンセサイザーも導入、剛だけでなく柔も有り、「Interzona」では少しオリエンタルな感じもし、続く「死の海」では『Nai-Ha』収録の「Angel」のような静かに語るようなヴォーカルを聴く事ができ、続く「Freedom Bondage」では何とダブ処理を行なっている。更に続くラストの「Ground Zero」では何と何と"なまはげ"グロウルではなく"歌って"いるではないか!以前にも増して曲中の展開が多くなっており、ちょっとJohn ZornのNaked Cityのような曲展開も思わせる。

 

上記4枚をずっと聴いていたら、Steve Albiniが関わる以前の音源も聴いてみたいと思ったので、1990年にPathological Recordsからリリースされた『Maximum Money Monster』と1995年にNux Organizationからリリースされた『Trance Europe Experience』、また、最近の音源も聴いてみようと思い、2001年にNeurot Recordingsからリリースされた『10,000 Light Years』(これはSteve Albini録音)も聴いてみる事にした。

 

【1990年】Maximum Money Monster

 

先ず、『Maximum Money Monster』だが、明らかにサウンドが違う。特にドラムサウンド。全8曲中、5曲のドラムスは竹谷郁夫、3曲は吉田達也が叩いているが、誰が叩こうが関係無く、Steve Albiniが録音していたらなぁ…と思ってしまった。また、KK Nullのヴォーカルがまだそれ程グロウルな感じではない。この1年後に『Total Castration』で聴ける完成された"なまはげ"グロウルヴォーカルになるのだから、驚いてしまう。ライヴで相当鍛えられたという事か。

 

Trance Europe Experience

 

次に『Trance Europe Experience』(Kraftwerkの『Trans Europa Express』のもじりかな?)だが、オランダで過去曲6曲を再録音、3曲はオランダとベルギーのライヴ音源で構成されている。再録音した過去曲6曲はよく録れているが、ドラムサウンドはやはりSteve Albiniの録音の方が生々しい感じがして優れていると思う。ライヴ音源も雰囲気は伝わるが3曲と少なく、ちょっと私は不完全燃焼な感じになった。

 

【2001年】10,000 Light Years

 

『10,000 Light Years』はやはり音楽の幅が広がった感じを受けるのだが、『Freedom Bondage』でも少し感じたのだが、KK Nullのヴォーカルが減っている。これは何か寂しい感じがした。私にとってZeni Gevaの音楽にはKK Nullのヴォーカルが絶対に必要なんだな、と改めて思った。『Freedom Bondage』以降は曲中の展開が多くなっており、プログレ的、テクニカル・デスメタル的な感じとなっている。Wikipediaを見ると、KK Null曰く、プログレッシヴ・ハードコア・ロックとの事だ。ハードコア・パンクではないんだね。

 

ところで今月5月7日に惜しくもSteve Albiniが亡くなってしまったが、Zeni Gevaは彼を追悼する意味で、Bandcamp上で2018年にCold SpringからZeni Geva & Steve Albini名義でリリースした『Maximum Improsion』収録の「Kettle Lake」のスタジオVer.とライヴVer.の2曲をフリーダウンロード可能とさせている。

 

【2024年】Steve Albini & Zeni Geva

 

『Maximum Implosion』は『Nai-Ha』の1996年再発盤(ボーナストラックとして12"シングルでSteve Albiniが歌う「Kettle Lake」と「Painwise」の2曲を収録)と1993年にNipp Guitarからリリースしたライヴ盤『All Right, You Little Bastards!』を収録したアルバムで、2018年にMartin Bowesによって最終マスタリングされたアルバムである。

 

【2018年】Maximum Implosion

 

特に聴いて欲しいのが『Kettle Lake』で、今、この曲を聴くと、Steve Albiniが自らに送るレクイエムのように聴こえる。また、この曲でのSteve Albiniの歌とシャウトは、NirvanaのKurt Cobainを思い起こさせる。Nirvanaの『In Utero』が好きな人には絶対に聴いて貰いたい曲だ。

 

ライヴ盤『All Right, You Little Bastards!』だが、1992年3月31日に東京の20000Vで行われたライヴ音源(1~8曲目)と同年4月3日に大阪のFandangoのライヴ音源(9~12曲目)で構成されている。ちょうどZeni GevaとSteve Albiniが日本で『Nai-Ha』を録音した直後のライヴ音源である。

 

【1993年】All Right, You Little Bastards!

 

01. I Want You (『Total Castration』収録)

02. New Flesh (『Total Castration』収録)

03. Autobody (『Nai-Ha』収録)

04. Godflesh (『Total Castration』収録)

05. Guystick Bodie (『Maximum Money Monster』収録)

06. A Piece Of Angel (『Nai-Ha』収録の「Angel」のインストゥルメンタルパート)

07. Kettle Lake (『Nai-Ha』再発盤収録)

08. Painwise (『Nai-Ha』再発盤収録)

09. Total Castration (『Total Castration』収録)

10. Bigman Death (『Total Castration』収録)

11. The Model (Big Blackでも演ったKraftwerkのカバー)

12. I Hate You (『Total Castration』収録)

 

KK Nullの"Zeni Geva & Steve Albini!お前が欲しい!"というシャウトで「I Want You」が始まるのだが、カッコ良過ぎて鳥肌が立った。ライヴ音源なのでスタジオ録音のような音質ではなく当然荒い音質なのだが、ライヴの雰囲気がダイレクトに私の脳に伝わって来る。ライヴ音源で大事な事は、以下にその場の雰囲気を真空パックできるか?という事と、バンドの想いや勢いが伝わるか?という事だと思うが、その点でこの音源は非常に素晴らしい音源だと思う。私の頭に想い浮かんだのはJohnny Thunders & Heartbreakersの『L.A.M.F. Live At The Village Gate 1977』だった。『All Right, You Little Bastards!』を気に入った人はちょっと聴いてみて欲しい。私が言っている事がわかると思うから。

 

『All Right, You Little Bastards!』を聴いて改めて思ったのが、『Total Castration』と『Nai-Ha』の曲が良いという事だ。個人の好みの話だが、私は特に『Total Castration』に収録されている曲が好きだ。純粋にロックとしてカッコ良い曲ばかりだと感じるからだ。「I Want You」で始まり「I Hate You」で終わる曲構成はZeni GevaとSteve Albiniも『Total Castration』を意識していたのではないか?と勝手に妄想する。

 

そして改めて『Total Castration』と『Nai-Ha』を聴き返すと、やはり私は『Total Castration』が一番好きだ。だから私はこれからZeni Gevaを聴こうとしている人には『Total Castration』と『All Right, You Little Bastards!』から聴く事をオススメしたい。

 

You Tubeに『All Right, You Little Bastards!』収録の20000Vでのライヴ動画が有ったので貼っておく。カッコイイぞ!

 

 

最後にZeni Gevaを聴いていて思った事は、Steve Albiniが録音したから素晴らしいアルバムになったのではなく、素晴らしいアルバムは、元々バンドが素晴らしいのだ。Steve Albiniはその素晴らしさを彼の録音手法で原石から宝石に変えただけ、バンドの本質を引き出しただけなのだ。Steve Albiniは録音技師という媒介だが、彼はミュージシャンでもあり、彼もバンドもどちらも人間、共鳴すると只本質が現われるだけでなく、アウトプットされた音楽の魅力が1×1ではなく、1×2、1×3と倍増するのだと思う。The Jesus Lizardの『Goat』やPJ Harveyの『Rid Of Me』が素晴らしいのはそういう事ではないかと思うのだが、どうかな?そんな事を考えながら、Steve Albiniが関わった音源を聴くのは何だか楽しいね。私はこれからもそういう聴き方をして行こうと思う。

 

 

おまけその①…「Bigman Death」のKK Nullの"なまはげ"グロウルでの"Bigman Death!"が何だか"ニッ、ポンッ、デースッ!"と空耳してしまうのは私だけだろうか?

 

おまけその②…田畑満さんがお母さんにSteve Albiniを紹介した時の話がとても面白くて微笑ましい。

 

おまけその③…さぁ、これから田畑満さんのソロアルバムと河端一さん関連のアルバムを聴いて行くゾ!