現代音楽や前衛的な音楽、アンビエントミュージックやミニマルミュージックが好きな人なら、La Monte Youngの名前は知っていると思う。私がその一人なのだが、実は今までLa Monte Youngを聴いた事が無かった。

 

La Monte Young (左)と妻のMarian Zazeela

 

その理由は、もし聴くのなら、2021年に自ら作った第四世界に旅立った大好きなJon Hassellが参加した『Dream House 78'17"』から聴いてみたいと思っていたからだ。このアルバムは近々再発されるのだが、何だかずるずると再発日が延期になっている。今のところ、3月22日に発売されるようだ。

 

【1974年】Dream House 78'17"

 

今はまだ軽い肺炎(結局、入院してしまったが)の治療中の私が聴いている音楽は、Alva Notoと坂本龍一の共作アルバムや、吉村弘などの日本の環境音楽、鈴木昭男やDavid Toopのフィールドレコーディング物、John Cageのプリペアドピアノといった音楽で、どうも動的な音楽はしっくり来ず、身体がミニマルでアンビエントな音楽を欲している。

 

La Monte Youngを聴いてみたいと思っていても、『Dream House 78'17"』の再発はまだ先だ。そこで我慢し切れずに、Bandcampに有った『The Second Dream of The High​-​Tension Line Stepdown Transformer from The Four Dreams of China』、『The Tamburas of Pandit Pran Nath』、『The Well​-​Tuned Piano in the Magenta Lights “87 V 10 6​:​43​:​00 PM — 87 V 11 1​:​07​:​45 AM NYC”』の3枚をダウンロードして聴いてみた。

 

【1991年】The Second Dream of The High​-​Tension Line Stepdown Transformer from The Four Dreams of China

 

『The Second Dream of The High​-​Tension Line Stepdown Transformer from The Four Dreams of China』から聴いた。夜、子供達を寝かせてから、寝室に置いてあるスピーカーから音を出して聴いたのだが、一発で気に入った。聴いていると何だか落ち着くのである。

このアルバムで使用される楽器はトランペットだけで、8人の奏者が音を出している。その演奏はジャズのような吹き方ではなく、8人がそれぞれ短音を吹いているのだが、それぞれが出す音が消えたり重なったりするので、聴いていると緩やかな音のうねりを感じる事ができる。また、全体的にふと演奏が止まったり始まったりするのが延々と繰り返されるので、始めが有るのか無いのかわからないような音楽になっている。リピート設定すれば、延々と演奏が続いているかのように聴けるだろう。

音楽のジャンルとしてはドローン・ミュージックである。このアルバムはタイトル曲の1曲のみなのだが、普通の人(?)が聴いたら、延々と何も変わらない演奏を聴かされていると思うだろう。タイトルに"The Melodic Version"と記載されているのだが、メロディーを感じると言うより、上述した緩やかなうねり、極僅かな音階の変化をゆっくりと感じるのみだ。

このアルバムは静かな夜に聴くのに最適だ。霧の朝に聴くのも良いかもしれない。メディテーション、瞑想といった言葉が頭に思い浮かぶ。牧歌的とも言えるかもしれない。移動中にイヤフォンを使って聴いてみたが、私は移動中ではなく、静かにじっとしている時に聴いた方が、この音楽の良さを感じ易いと思う。また、この音楽はスピーカーから音を出して、空気を震わせて、身体で感じるように聴いた方が良いと思う。イヤフォンだと音の細部はよくわかるが、スピーカーから音を出した方が音に柔らかみ、丸みを感じるからだ。大きな音を出す必要は無いが、だからと言って、スマートフォンのスピーカーではこの音楽の良さを感じる事はできないと思う。

それにしても、これは本当に良い音楽だ。聴けて良かった。

 

【1999年】The Tamburas of Pandit Pran Nath

 

このアルバムはスピーカーで音を出して聴くより、イヤフォンかヘッドフォンで聴いた方が良いだろう。La Monte YoungとMarian Zazeelaのタンブーラ(インドの弦楽器)が左右のチャンネルに振り分けられているからだ。演奏は2人のタンブーラのみで、ひたすらギィィーン、ウィィーンとサイキックでドラッギーな音が出されているのみである。2人が出す音は少しずれているので、このイヤフォンで聴いていると、このギィィーン、ウィィーンという音が脳内でグルグル回っているかのように聴こえるのだ。これをずっと聴いていると、幻聴ではないが、タンブーラの音の上に脳内で勝手に別のメロディーが浮かび上がって、それがまたグルグル回るような感じになる。

 

このアルバムの少し惜しい所は、突然始まり突然終わってしまう事だ。もしかしてリピート再生すると延々と演奏される状態になるかと思ったが、私のスマートフォンではリピート時に少し音が切れてしまうので、確認する事ができなかった。

 

【1987年】The Well​-​Tuned Piano in the Magenta Lights “87 V 10 6​:​43​:​00 PM — 87 V 11 1​:​07​:​45 AM NYC”

 

このアルバムは1曲のみなのだが、その演奏時間は6時間25分である。Akira Rabelaisの『À La Recherche Du Temps Perdu』の4時間58分も長いと思ったが、こちらは13曲。Keith Jarrettの『Sun Bear Concert』もアルバムのトータル時間は同じくらいだが、こちらは5つのコンサートを収録したアルバムなので、1曲を演奏したアルバム=録音物としては、最長の部類に入るのではないだろうか?LPなら5枚組である。

 

このアルバムを最初に聴いた時は、スピーカーから音を大きくせずに聴いたのだが、ピアノの音のように聴こえず、シタールのような弦楽器の音のように聴こえた。イヤフォンを使って聴いたら、やはりピアノかな?と思ったが、違うようにも聴こえる。改めてピアノは打"弦"楽器だな、と思った。

 

このアルバムはLa Monte Youngが1人でピアノを弾いている。Marian Zazeelaはライティングで関わっており、演奏には参加していない。映像作品が有るので、2人の共作名義になっているのだろう。ちなみにデザインで大好きなヴォ―カリストのDavid Garlandが関わっているようだ。

 

ここでのLa Monte Youngの演奏だが、静かに訥々と弾いたり、スコールのような連打をしたりと緩急強弱に富んでいる。静かに弾いている部分には東洋的、日本の詫び寂び的なものを感じる。ドローンではないので、ジャズのピアノソロが好きな人なら、気に入るかもしれない。

 

3枚のアルバムを聴いて思ったのは、La Monte Youngの音楽は誰かと聴くより、1人で聴いた方が良いだろう、という事。La Monte Youngの名前を聴くと、瞑想やスピリチュアル感じを受けるかもしれないが、1人で何かを考えたい時に聴いた方が良いように思った。

 

【1969年】31 VII 69 10:26 - 10:49 PM / 23 VIII 64 2:50:45 - 3:11 AM The Volga Delta

 

このアルバムは去年2023年に再発されたので、サブスク解禁されているかな?と思ったが、残念ながら未解禁だった。夏までにサブスク解禁されなかったら、夏の一時帰国に合わせてCDで買おうかな。

 

さて、以上で終わろうと思っていたが、この記事を書いている時にDiscogsでLa Monte Youngを調べていたら、グループ名の所にTheatre Of Eternal Musicと書かれていた。Theatre Of Eternal Music=永久劇場、これは場であってグループ名だったかな?と思ったが、何か記憶に引っ掛かる所が有り、もしかして、と思って、Bandcampを調べてみたら、何とTheatre Of Eternal Musicの同名アルバムが出てきた。しかも、MP3アルバムは無料ダウンロード可能。速攻でダウンロードして聴いてみた。

 

Theatre Of Eternal Music

 

【収録曲】

 

1(A1). Early Tuesday Morning Blues

2(A2). Bb Dorian Blues (Fifth Day Of The Hammer)

3(A3). The Over Day (Excerpt)

4(B1). Voices (Excerpt)

5(B2). The Fire Is A Mirror

6(B3). Two Sounds

7(B4). 13 | 73

8(B5). Drift Study (Excerpt)

 

【クレジット】

 

La Monte Young

Marian Zazeela: A1-3, B2

John Cale: A1-3, B2

Tony Conrad: A1-3, B2

Angus MacLise: A1-3, B2

Terry Jennings: A1-3, B2

 

記憶が蘇って来た。特殊端境面白音楽レコードショップSHE Ye, Yeのホームページでこのアルバムを調べてみると、どうも非公式盤のアルバムのようである。

 

Theatre Of Eternal Music

 

【収録曲】

A1. 12 I 64 The First Twelve; Sunday Morning Blues (Excerpt)

A2. 19 X 63 Fifth Day Of The Hammer; Bb Dorian Blues (Excerpt)

B1. 28 XI 63 The Overday (Excerpt)

B2. 30 X 63 Day Of Hummingbird Night (Excerpt)

 

【クレジット】

 

La Monte Young: sopranino saxophone
Marian Zazeela: voice drone
John Cale: viola
Tony Conrad: bowed guitar
Angus MacLise: hand percussion

 

↓SHE Ye, Yeの『Theatre Of Eternal Music』のアルバム紹介はこちら。

The Theatre Of Eternal Music : The Theatre Of Eternal Music - sheyeye records

 

しかし、どうも収録曲が異なる。そこでDiscogsで更に調べてみたら、このアルバムは2種類の非公式アルバムが存在するようだ。そのもう1種類がこれだ。元々カセットテープでのリリースだったようだ。

 

Theatre Of Eternal Music

 

今回の無料MP3アルバムはこのカセットテープ音源の再発である。このカセットテープをリリースしたレーベルは、The Velvet Undergroundの非公式音源をリリースするレーベルのようだ。The Theatre Of Eternal MusicにはJohn Caleが参加しているからね。故、アーティスト名はTVU=The Velvet Undergroundとなっているものと思われる。一方、SHE Ye, Yeが紹介したアルバムはLa Monte Youngの非公式音源をリリースするレーベル(名前無し)のようだ。

 

このカセットテープ音源はラジオ音源のようだ。1~3曲がLa Monte Youngの非公式音源リリース盤と同じであるように思えるが、定かではない。カセットテープ音源のクレジットに記載されているTerry Jenningsは奏者なのだろうか?

 

ラジオ音源だから音質は悪い。しかし、その悪さを感じさせない程、この音楽は素晴らしい。特にMarian Zazeela、John Cale、Tony Conrad、Angus MacLiseが参加した曲は素晴らしい。彼らが参加した曲ではLa Monte Youngはソプラノサックスを吹いているのだが、ドローンとパーカッションをバックに細かいタンギング奏法でサックスを吹きまくっている。そのサックスは、後にThe Velvet Undergroundに参加したJohn Caleが弾くアヴァンギャルドなヴィオラのようだ。また、このドローンとパーカッションは、『Dream House 78'17"』に参加したJon Hassellが後にリリースした1stソロアルバム『Vernal Equinox』のB面のハイライト「Blues Nile」~「Vernal Equinox」のようだ。つまり、La Monte Youngチルドレンは、Theatre Of Eternal Musicで培った経験を、しっかり次の音楽に生かしていたという事だ。

 

John Hassellの『Vernal Equinox』には、『Brainwave Music』で有名なDavid Rosenboomが参加しているが、てっきりTerry Rileyの『In C』への参加で知り合ったのかな?と思っていたが、Discogsで調べたら、Terry RileyもDavid RosenboomもTheatre Of Eternal Musicに参加していた事がわかった。そういう繋がりを調べて音楽を聴くのも音楽ファンの楽しみの1つだね。

 

『Theatre Of Eternal Music』があまりにも素晴らしかったので、La Monte Youngの非公式音源リリース盤のLPをDiscogsから買ってしまった。カセットテープ音源には収録されていない「30 X 63 Day Of Hummingbird Night (Excerpt)」が収録されているし、ジャケットがカッコ良過ぎるからだ。カセットテープ音源にも収録されている曲が同じであるかどうか確認したいという事も有る。一時帰国した時に聴くのが楽しみだ。

 

Theatre Of Eternal Musicの音源はこの他にTable Of The Elementsから2000年にリリースされた『Inside The Dream Syndicate Volume I: Day Of Niagara (1965)』が有る。残念ながらサブスク解禁されていないので、これも後でCDを買おうと思っている。

 

Inside The Dream Syndicate Volume I: Day Of Niagara (1965)

 

そんな訳で、John Caleが参加したThe Velvet UndergroundやJohn Hassellの音楽が好きな人なら、『Theatre Of Eternal Music』は必聴だ!Bandcampから無料でMP3アルバムをダウンロードできるので、今すぐ聴いてみてくれ!