私がイギリスのジャズドラマーTony Oxleyについて知っていた事は、Evan ParkerとDerek Baileyと共にIncus Recordsを立ち上げた事と、先日、John MacLaughlinの1969年の1stアルバム『Extrapolation』を聴いた時にクレジットを調べたところ、ドラマーが彼で意外に思った事くらいだった。

 

Tony Oxleyが12月26日に亡くなった。そこで彼のリーダーアルバムの音源を聴いてみようと思って調べたら、1stアルバム『The Baptisted Traveller』は『Extrapolation』と同じく1969年リリースである事がわかった。『The Baptisted Traveller』にはEvan ParkerとDerek Baileyが参加しており、フリージャズのアルバムのようだ。『Extrapolation』は一般的にジャズロックと言われている。同じ時期に異なるスタイルの音楽を演奏したTony Oxleyに興味を持ったという訳だ。Incus Recordsの1番、1970年リリースの名盤であるEven Parker/Derek Bailey/Han Benninkの『The Topography of the Lungs』より前の演奏記録という事も気になった。

 

という訳で今回はJohn MacLaughlinの『Extrapolation』とTony Oxleyの『The Baptisted Traveller』を聴き比べた感想を書く事にする。

 

Tony Oxley ※このドラムセットは何だか凄いね!

 

Extrapolation/John MacLaughlin

 

【収録曲】

 

A1. Extrapolation

A2. It's Funny

A3. Arjen's Bag

A4. Pete The Poet

A5. This Is For Us To Share

B1. Spectrum

B2. Binky's Beam

B3. Really You Know

B4. Two For Two

B5. Peace Piece

 

【クレジット】

 

John MacLaughlin: Electric Guitar, Acoustic Guitar, Composed By

Tony Oxley: Drums

John Surman: Baritone Saxophone, Soprano Saxophone

Brian Odges: Bass

Giorgio Gomelsky: Producer

 

The Baptited Traveller/Tony Oxley Quintet

 

【収録曲】

 

A1. Crossing

A2. Arrival

B1. Stone Garden

B2. Preparation

 

【クレジット】

 

Tony Oxley: Drums, Arranged By

Evan Parker: Tenor Saxophone

Derek Bailey: Guitar

Kenny Wheeler: Trumpet, Flugelhorn

Jeff Clyne: Bass

Mike FitzHenry: Engineer

David Howells: Producer

 

John MacLaughlinの名前を聞いて思い浮かべるのは、やはりMiles DavisかMahavishnu Orchestra、Santanaかと思うが、『Extrapolation』で聴かれるのはイギリスの当時の境界が曖昧なジャズ/ロックの音かと思う。私が聴いた印象では、このアルバムの音楽は確実にジャズだ。意外と良い仕事をしているのはBrian Odgesのベースだ。意外と思うかもしれないが、各曲の芯になっているのは彼のベースである。John MacLaughlinのギターも、John Surmanのサックスも、Tony Oxleyのドラムも、各曲を装飾するような感じで、Brian Odgesのベースが各曲の推進力であり、芯を成しているように聴こえる。そして、このアルバムは本当に各楽器の音のバランスが良い。右チャンネルにJohn MacLaughlinのギター、左チャンネルにJohn SurmanのサックスとBrian Odgesのベース、真ん中にTony Oxleyのドラムという感じで録音されている。また、A面B面共に、まるで曲間の切れ目が無いように演奏/録音されている。実際に続けて演奏している曲も有るが、切れ目が無いように聴こえるのだ。そうするとかなり長い曲となり、誤解を恐れずに言うとプログレと言っても通用するかと思う。ラストのB1のJohn まcLaughlinのアコースティックギターは既に東洋的な演奏である。忘れそうになるが、この記事はTony Oxleyの記事なので彼のドラムプレイについて書くと、A4で聴かれるドラムソロパートはずっと聴いていたいと思わせる程、演奏パターンが豊かなプレイである。

 

『The Baptited Traveller』は括りとしてはフリージャズだと思うが、完全即興ではない。ジャズイディオムに基づいたフリージャズだと思う。Kenny WheelerはECMからアルバムを出しているAzimuthの方でよく知られていると思うが、彼のフリーキーではなく抒情的な感じがするトランペットによって、このアルバムは他のフリージャズのアルバムと比べて聴き易くなっていると思う。それが良いのか悪いのかは個人の好みの問題だ。私が"ん?"と思ったのは、レコードならA面の2曲でDerek Baileyのギターの音が聴こえない事だ。A面の2曲にDerek Baileyは参加しているのだろうか?クレジットを調べたがわからなかった。B面の2曲ではギターの音が聴こえる。しかし、B1は少し控えめな感じだ。B2で各楽器の音のバランスが取れたように聴こえた。Tony Oxleyのリーダーアルバムはもう少し他のアルバムも聴いた方が良いかと思った。

 

今の私は晩年のCecil Taylorとのデュオ演奏のライヴアルバムに興味が有る。そして、Cecil Taylorのアルバムも聴き直そうと思っている。集団即興のアルバムも聴き直そうと思っているけどね。今の私の音楽耳は、どうもジャズを欲しているようだ。

 

最後にTony Oxleyのドラム演奏の動画を貼っておく。現在の若いジャズドラマーで、後年、レジェンドと呼ばれるにふさわしいミュージシャンは居るのかな?他の楽器だと思いつくんだけどな…