Christian Marclayはミュージシャンと言うより現代美術家と言った方が良いように思うが、音楽が好きな私はやはりミュージシャンとして彼がリリースした音楽/録音媒体に興味が有る。

 

Christian Marclay

 

"ターンテーブルを演奏する"と言うと、誰でもDJを思い浮かべると思うが、誰がターンテーブルにストラップを取り付けてギターのように演奏すると思う?

 

私はChristian Marclayの音源は1994年にFor 4 EarsからリリースされたパーカッショニストのGünter Müllerとのデュオアルバム『Live Improvisations』しか聴いていない(と思った)。Christian Marclayは気にはなるが、手を出して来なかったミュージシャンだ。しかし、私の最近の不運続きの鬱憤を晴らすために、思い切ってDiscogsでRecycled Recordsから1985年にリリースされた1stアルバム『Record Without A Cover』を買った時に、MP3アルバムをダウンロードできるAtavisticから1997年にリリースされた『Records』を聴いてみようと思ったのだった。『Record Without A Cover』を聴けば良いじゃないかと思うかもしれないが、私は中国は上海に住んでいて、レコードの『Record Without A Cover』は日本の実家に届くので、直ぐには聴けない。多分、来年の夏まで聴けないだろう…そこで、それまでの間のChristian Marclay欲を埋めるべく、『Records』を聴く事にした訳だ。

 

【1997年】Records

 

【1994年】Live Improvisations

 

【1985年】Record Without A Cover

 

久し振りに聴くChristian Marclayの音楽は、やはり面白い。ポストフリージャズを説明する時に"破壊と再構築"という言葉を使う時が有ると思うが、Christian Marclayの音楽は正にそれである。と言うかやり過ぎ。『Records』を聴いた時、よくここまで再構築したな、と思った。ヒップホップのようなターンテーブル使いではないのに、グルーヴを感じる曲さえ有る。私は夕食後の散歩中に『Records』を聴いたのだが、途中で顔がニヤけてしまった。何だか久し振りに音楽が面白くて幸せだと感じた。

 

次に久し振りに上海に持って来ていた『Live Improvisation』も聴いてみたのだが、何だかGünter Müllerが負けているように感じた。そう感じるくらいChristian Marclayが繰り出すサウンドが強過ぎるのだ。だから、Günter Müllerには申し訳ないが、このアルバムはChristian Marclayのアルバムと言い切っても良いだろう。

 

Christian Marclayの音楽を聴いていると、何だかレコード針が可哀そうに思えて来る。酷使するとは正にこの事だ。しかし、その酷使されるレコード針から生み出される音楽が面白いのだから、仕方が無い。

 

ところで、『Record Without A Cover』だが、このレコードはタイトル通り"Cover"=ジャケットが無い。レコードの輸送や保管、再生等の"過程"で付く傷や汚れすらも音楽の一部だと言うコンセプト。レコードの音楽はレコードという固体に刻まれた固定された音楽だが、『Record Without A Cover』の音楽は正に変わる筈の無い音楽が徐々に変化して行く音楽と言えるだろう。こんな事を考えたミュージシャンは後にも先にもChristian Marclay一人だけじゃないかな?

 

Leroy Jonesはジャズが従来のジャズからフリージャズに変わった時に、ジャズを"変わっていく同じもの"と表現したと思ったが、『Record Without A Cover』の音楽も正に"変わっていく同じもの"ではないだろうか?もっとも『Record Without A Cover』の場合、"もの"="物"で、レコードという固体の状態が変わる事で音楽が変わって行くのだが。

 

こういう普通の(?)音楽には無いコンセプトアルバム…と言うよりコンセプトレコード(?)は、RecRec Musicから1989年にリリースされた2ndアルバム『Footsteps』まで続く。『Footsteps』は正にタイトル通りに人が踏ん付けて付いた傷や汚れさえも音楽の一部としたレコードなのだ。『Footsteps』まで手を出すかどうかは、『Record Without A Cover』を聴いた後に決める事にする。他にも音楽の終活で死ぬ前までに聴いておきたい音楽が有るからだ。再発やサブスク解禁されない音楽がまだまだ有るからね。

 

それにしても、早く日本に行きたいなぁ…去年買った音楽の終活用の未聴のレコードがまだ有るからなぁ…しかし、私は本当に音楽の終活ができるんだろうか…世の中には私が聴きたい面白い音楽がワンサカ有るからなぁ…

 

最後にChristian Marclayの演奏動画が無いか探してみたら、1989年のテレビ番組での演奏動画が有ったので貼っておく。Christian Marclayのレコードの扱い方にちょっと驚いた。Christian Marclayにとって彼が使うレコードは"使う"消耗品なんだろうね。