Psychedelic Speed Freaksと聴いてピンと来る人は、生悦住英夫/明大前に在ったレコード店モダ-ン・ミュージック/雑誌G-Modern/レーベルP.S.F./High Riseのファンに間違い無い。私もその一人で、レコードを買いに出掛けた時は必ずモダーン・ミュージックに立ち寄り、Nicoの顔が印刷されたレコード袋の戦利品を持って、一階の喫茶店で戦利品を眺めながらスパゲティーナポリタンとコーヒーに舌鼓を打つ、というのが当時の私の好きなルーチンだった。

 

モダーン・ミュージックの店内(中央の人物が店長でレーベルP.S.F.とG-Modernの主催者の生悦住英夫)

 

モダーン・ミュージックのレコード袋

 

モダーン・ミュージックに行くようになったのは雑誌G-Modernがキッカケだった。雑誌G-Modernの存在を知ったのが何だったかは忘れてしまった。Disk Unionの店頭で知ったのだったかな?モダーン・ミュージックの店内では確か店の左奥に雑誌G-Modernが置かれていたと思う。G-Modernの世界は独特で、私の大好きな雑誌の一つだった。

 

雑誌『G-Modern』(写真は大友良英が表紙のVol.25、昔読んだな…)

 

モダーン・ミュージックの店内でP.S.F.のCDが置かれていたのは確か店の奥の棚だった。そこにはP.S.F.の他に非常階段のJOJO広重のレーベルAlchemyのCD等も置かれていて、当時、ノイズミュージックを純粋に"ノイズ"として聴いていた私は非常階段の『Romance』等を買った。他にはカセットテープのアルバムも置かれていたと思った。確かIncapacitantsの限定カセットテープを買った記憶が有る。確か確かって、記憶が大分薄れているな…

 

Romance/非常階段

 

当時はCDを買う事が多かったと思ったが、モダーン・ミュージックで買ったレコードと言うと、13th Floor Elevators等のガレージサイケのアルバムとHigh Riseの1984年リリースの1stアルバム『Psychedelic Speed Freaks』だった。『Psychedelic Speed Freaks』を買う人はP.S.F.が最初にリリースしたアルバムという事が買うキッカケかと思う。私がそうなのだが、家に帰って針を落とした瞬間、"何これ?"と思った人は沢山居たのではないだろうか?それは録音の音質の所為だ。粗い/荒いデモテープのような音質。当時、私はこの音楽を理解できなかった。

 

Psychedelic Speed Freaks/High Rise

 

あれから二十数年、何の因果か私は中国は上海に居る。上海に来る大分前にモダーン・ミュージックの実店舗は無くなった。モダーン・ミュージックのホームページはよく見ていた。上海に居る間に生悦住英夫は亡くなった。

 

P.S.F.に再び興味を持ったのは、White Heavenの『Out』のMP3アルバムを聴いてからだった。『White Light / White Heat』の頃のThe Velvet UndergroundとBlue Cheer等のガレージサイケが好きな人は必聴のアルバムだが、そのノイジーさと粗い/荒い音質に惹かれたのだった。

 

Out/White Heaven

 

Black EditionsというレーベルがP.S.F.のアルバムを再発しているのだが、White Heavenのアルバムの再発は『Out』だけだった。そこでHigh Riseのアルバムが再発されていないか探したところ、『Ⅱ』が再発されていたので、これも聴いてみた。聴いた時は"あれ?聴き易い"と思った。聴き易いというよりはわかり易いというべきか。ヴォーカルが奥に引っ込んでいるのは『Psychedelic Speed Freaks』と同じだが、音の粗さは前作程ではないような気がする。また、リフのメロディーがわかり易く、パンクロックやMotorheadを思わせるところが有る。ラストの「Pop Sicle」ではフラットでミドルテンポな感じで始まるのだが、これが徐々に加速していく。また、成田宗弘の延々と弾きまくるギターを聴いた時は、なぜかDuan Allmanの弾きまくるギターを思い出した。

 

Ⅱ/High Rise

 

P.S.F.からのリリースではないが、White HeavenやHigh Riseを聴いた後、ガレージサイケ/ノイジー/ノイズという言葉がキーワードになっていた私が聴いたアルバムに、非常階段の『King Of Noise』と『Tapes』が有る。そしてこの二枚のアルバムはWhite Heavenの『Out』やHigh Riseの『Ⅱ』が好きな人に是非お勧めしたい。絶対に好きになると思う。非常階段と言うとノイズミュージックと思う人が殆どだと思うが、『King Of Noise』と『Tapes』で聴かれる音楽はノイズというよりバンドが演奏するノイジーなロックだ。この音楽には身体性を感じる。生身の人間が出している音楽だ。そして、この音楽には速さを感じる。リズムやリフの刻みが速いという事ではない。音の粒子の粗さ/荒さによって音楽が速く聴こえるのだ。私はここまで聴いて"Psychedelic Speed Freaks"の音楽を理解できたように思った。サイケデリックとは爆音による酩酊感、スピードとは音の粒子の粗さ/荒さで感じる点の速度だ。ノイズと言っても音の連なりが線になるとドローンのように聴こえる時が有る。音楽によっては音の粗さ/荒さが必要な音楽が有るのだ。

 

King Of Noise/非常階段

 

Tapes/非常階段

 

不失者に於ける灰野敬二のエレクトリックギターにも音楽の速度を感じるが、去年の夏の散歩時、私の頭の中で不失者の音楽は私の目の前から走って来る可愛いオネーチャンの揺れるオッパイに負けてしまった。エロオヤジのどうでもいい話。

 

不失者(2ndアルバム)/不失者

 

今までの流れから意外に思うかもしれないが、Johnny Thunders & The Heartbreakersの絶頂期のライヴアルバム『L.A.M.F. Live At The Village Gate 1977』にも、この音楽の速度を感じる事ができる。

 

L.A.M.F. Live At The Village Gate 1977/Johnny Thunders & The Heartbreakers

 

阿部薫は誰よりも速くなりたいと言っていたとの事だが、高柳昌行との『解体的交換』を聴いてみると、寧ろ速さを感じるのは高柳昌行のエレクトリックギターの音で、アルトサックスという"吹く"楽器の所為か、高柳昌行の音に追い付いていないように感じる。私は阿部薫の音楽を語る時は速度よりも阿部薫が奏でる"歌"を聴くべきではないか?と思う。

 

解体的交感/高柳昌行・阿部薫

 

先日、High Riseの『Psychedelic Speed Freaks』のDVD付き再発CDを通販で買った。日本の実家に届いた後、他のCDと子供達へのプレゼントと一緒に母に郵便局のEMSで上海に送らせたら、受取人の住所や名前を英語表記で書かなければならず、母は郵便局員に話してローマ字で書いたとの事!日本人の名前ならともかく住所や外国人の名前をローマ字で書くとは思わなかった。前に一度物を送って貰う時に教えたのに忘れたようだ。もうお婆ちゃんだから仕方が無いが、その所為か税関で荷物を止められた。子供達へのプレゼントが有ったので、妻には日本から物を送らせる事を内緒にしていたのだが、携帯電話番号だけは正しかったので、妻に連絡が来た。しかし、住所は郵便番号以外は違うし、受取人の名前も違う。郵便局の人から名前を聞いた時、妻は"その名前の人は居ない"と答えたのだが、電話番号は妻の物だったので、"では、この電話番号の電話の持ち主は誰か?"と聞かれたので、私に確認して発覚となった次第。妻には"もう日本から荷物を送るな!"とこっぴどく怒られた。今回は電話番号の本人証明の取得や家の賃貸契約書の準備も有ったが、そもそも海外からの郵便荷物を受け取る税関が家から遠くて面倒なんだよね。

 

さて、久し振りに聴いたHigh Riseの『Psychederic Speed Freaks』だが、やはり『Ⅱ』より音が粗い/荒い。そして、『Ⅱ』よりサイケデリック色と即興性が強いように思う。Black Editionsが『Ⅱ』を再発した理由がわかるような気がする。『Ⅱ』の方がわかり易いからだ。どちらが好きかと訊かれたら、どちらも好きなのだが、ドラムは『Ⅱ』の方が好きだ。私はCDの音源をi-Phoneに入れて聴いているのだが、音量を最大にしても、まだもう少し音量が足りないような録音レベル、もっと爆音で聴きたいのだが、近所迷惑になるのでステレオから音を爆音で放つ訳にはいかない。どうしたものか考え中だが、このアルバムに限らず、ここまで書いてきたアルバムはどれも爆音で聴いてほしい、音の粒子で音楽の速度を感じてほしいと思う。

 

生悦住英夫は私達に"音楽の速度"と"楽器が奏でる歌"という概念を教えてくれたように思う。記事のタイトルに"生悦住英夫が教えてくれた事"なんて大それた文言を入れたが、それくらい凄かった人だったという事が若かった頃にはわからず、年を取った今漸くわかったので、記事として残して少しでも興味を持った人の目に触れて貰えればいいな、と思い、筆ならぬ指を取った次第だ。

 

次回はもう一つの"楽器が奏でる歌"について書いてみようと思う。