学習院大学経済学部教授の鈴木亘教授から社会保障制度、特に年金問題について講義を受けました。
大変勉強になりました。
現状の賦課方式から、積立方式・掛け捨て方式に移行は可能かとの命題です。
現状の年金制度が破たん寸前であるということはなんとなく認識していましたが、ここまでひどいとは思っていませんでした。
まずは現状認識から
二つの分岐点を経て今にいたります。
2004年の改正「100年安心プラン 」と2009年の財政検証
100年安心プランはその名の通り年金制度は破たんしませんという年金制度計画。そして後の2009年にその経過検証をおこなったもの。
2004年の計画では安定して推移し、時には増加するはずの171兆円の積立金が、2012年現在、116兆円しか残っていない。(2004年計画では168兆円積み立て済みのはず)
つまり 6年間で50兆円の年金資産がなくなったことになる。2006年比で約30パーセントの資産がたった6年で飛んで行ったことになる。
どこが100年ですか、となりますよね。
予定されていた積立金の運用利回り4.1%が達成されていないこと(実際は運用利回りマイナス3パーセントとのこと)、高い賃金上昇率が達成されずかつ失業者増などもその原因となっている。完全な想定外です。
こういった状況を受けて2009年の2月に財政検証を行っているものの、リーマンショック前に試算。当然東日本大震災による影響などは反映されていない。
こういった状況を受けて抜本的な年金改革の必要性があります。
現在我が国の年金制度は「賦課方式」
つまり 「現在の現役世代(働く世代)」 が 「現在の高齢者」 の年金を負担していることになります。
1970年代は 11人の現役世代で1人の高齢者 を負担
現在は 3人で1人の高齢者 を負担
あと11年で 2人で1人の高齢者
2050年で 1人で1人の高齢者 を負担することになるといいます。
この負担の「世代間不公平」こそが最大の問題点になります。
少子高齢化、失業問題などで働く世代の負担が膨張し、かつ自分たちの未来に希望がもてないならば社会保障制度を維持しようと国民が思わないのは当然です。
現役世代にとってみれば誰だってこのままじゃいやです。
そこで 積立方式への移行が議論になるわけです。
「積立方式」とは文字のまま。
自分が将来受け取るお金を、自分で積み立てていく。
超長期の積立保険・積立預金と考えて頂ければわかりやすい。
現在、年金制度は多額の債務(←厳密にいうと債務ではないと反論を受けているらしいのですが「誰かへの支払い義務があるお金の額」という定義で「債務」と教授はおっしゃられています。まったくそのとおりだと思いますが)はじつに800兆円にも上るとのこと。
受給予定者に支払うことになっているお金が800兆円あるという意味です。
この債務の部分を運用から切り離し、清算事業団に移す。
ここでは債務の消化に集中する。(かつて国鉄再建やJAL再建に用いられている方法だそうです)
債務を抱えたままの経営や運営は債務償還に気を取られ、適切な判断ができないことによります。
この債務償還に消費税や相続税をあてることで、世代間不公平感をなくし安定財源をもって償還に充てる事ができる。長期的で安定的な債務償還を目指す。
さらに、積立金については国債に充てる事でこちらも安定した運用が可能になる。
こうすることで積立金を官僚や政治家の自由にさせず、国民のための固定の資産とすることが可能になる。
問題点として列挙されている
1、積立方式に移行時にいまの高齢者やもうすぐ受給できる人たちが年金を受け取れなくなる
(↑急に積立方式に代わっても、これまで積み立ててないので受け取れない)
2、積立方式では積立金が莫大な額になり資産運用が不可能
などの問題点はこれをもって解決できるとのこと。
多々質問も出ましたが書ききれないのでとりあえずはここまで。
とにかく一瞬ですべてを解決する「魔法の一手」ではないものの、
年金資産(将来自分が受け取れる額)を、一人一人が明確にすることができ、将来のビジョンが安定することで社会保障制度の強化をはかり、現役世代の見通しを良くする。
↓ ↓
将来計画を立てやすくなることで現在の消費意欲も向上する(過度な貯蓄傾向には走らない)
というこの点だけでも現状の賦課方式よりも明らかに優れていると考えます。