彼女はテーブルの端に傘を置いて本を読んでいた。
視線を感じたのかこちらを振り向く。
「あっ」
と小さい声。
これには反応しないと。
軽く会釈をする。
このあと、なんて声かけようかな。
店員さんに注文するのも上の空。
スターバックスラテのトールサイズを持って
彼女のもとへ行く。
「こんにちは」
「どうも」
彼女はにこっと微笑んでくれた。
黒のスーツ。
赤のヒールと傘がアクセントになっている。
「よく近くで会いますよね」
「ええ、青い傘を見てわかりました」
そう言えばボクの手には青い傘。
「隣の席に座っていいですか」
「ええ」
ゆったり8人座れる大きな分厚い木のテーブル。
「いつも地下コンコースで見かけていたんです。
最近見かけなくなったのでどうしたのかと思っていた」
「雨の日は外を歩かなきゃいけないの」
「え?」
「仕事がら、雨の日は外に出てリサーチしてるの。
モニター兼マーケティング調査みたいなもの」
と言いながら彼女は名刺を差し出した。
キャノーバ株式会社
マーケティング担当
主任 並木洋子
と書いてある。
キャノーバとは最近よく聞く傘のブランド。
「ちなみにあなたの傘もキャノーバの傘でしょ?」
「うわぁ偶然。だから傘を見ていたんだ」
ボクのことを気になってたんじゃないのね・・
それから彼女は傘のことをいろいろ話し始めた。
「天気予報で雨というとみんながっかりするでしょ?それって私としては寂しく思うの。
雨が降ってもお気に入りの傘を持って、外に出てほしいみたいな」
「あぁ、その感覚わかる」
「あと、傘は閉じているときがほとんどなの。閉じているときにお洒落のアクセントとして、そして目立ち過ぎない存在でありたいと思うの」
「だから地下で閉じている傘と、地上の開いている傘をモニタリングしてたんだ」
「実は今もそう。この席からだと店の入り口からオーダーまでよく見えるでしょ。服装にこだわる人が傘にもこだわるかなど、いろいろ分かるのよ」
「ところで私の赤い傘、実は5種類あるのよ」
「え?気づかなかった」
「今日の傘は、開いたときに布地が親骨の部分ごとに微妙に色が違うの。だから今みたいに閉じているとグラデーションとなって素敵じゃない?」
「うんうん分かる」
「あとね、露先(親骨の先の部分をさして)が不規則に赤色っていうのがポイントなの」
彼女の話は止まらなそうだ。
「キャッチコピーは、雨を楽しもう」
ボクが言った。
「いいわね!それのった」
「じゃあ、ボクもそのモニターに参加させてほしいな」
「あなたには適性がありそう。だって今日みたいな降水確率30パーセントくらいでも傘を持っているのだもの」
「赤と青って反対語でお似合いね」
うーん
たぶんそれって赤と黒だと思うけど・・
恋愛なんて、勘違いから始まるものかも知れない。
そんな恋の予感の物語。
おわり
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あとがきのつもり
2回に渡り、皆さまの貴重な時間を頂戴しました。m(__)m
この作品は、過去にエブリスタへ投稿したフィクションです。
ただ、作品の中で主人公が歩く新宿の地下空間は好きで、そこのスタバも大好きなのです。
そんな自己満足ブログを最後までお読み頂いてありがとうございました。

