2回目です
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コンコン
「失礼します、今日からお世話になります岸です」
「やあ、こんにちは。君が岸くんかよろしくね。ボクは支配人の長谷川です」
けっこう若いイケメン、たぶん20代半ばだろう。それに気さくな感じ。
バイトの募集はウエイター(ウエイトレス)と厨房だったが、ボクはウエイターを希望していた。
さっそく、ウエイターをやるにあたり教育が始まった。
マニュアルを読み合わせ、大事なところは具体的に教えてもらう。
一通り読んだところで、支配人が制服を用意してくれた。
白のワイシャツに黒のズボン。黒のベストは着ても着なくてもいいらしい。
あっ、黒の蝶ネクタイがある。
聞いたら、これは絶対着用らしい。
蝶ネクタイ恥ずかしい。
七五三のとき以来だよ。
「なかなか似合うよ~岸くん」
ホントかな。
「じゃあ、発声練習から始めよう」
支配人の後をついて行く。
途中でウエイトレスとすれ違うと
「〇〇ちゃん、今日も可愛いね」
と言いながら女の子のお尻を軽く触れる。
「いやだぁ、支配人たら」
と、まんざらでもないウエイトレス。
とんでもないところに来ちゃったかな。
通用口の外にて。
「じゃあ、岸くん少し下がって。もっともっと」
20メートルくらい離れて対面する。
「いい?岸くん!ボクのあとに続いて大きな声で言って」
「はい、わかりました~」
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ」
「う~ん、ちょっと小さいな、もっと声だして」
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ」
「そう、その調子、じゃあ次ね。ありがとうございます、またお越しくださいませ」
「ありがとうございます。またお越しくださいませ」
「最後のほう聞き取れなかったよ、もう1回」
換気扇の音がうるさく、声が消されてしまう。
最初は恥ずかしいところがあったが、諦めて大きな声をだすことにした。
結局10分くらい声をだし続けた。
働いてお金を稼ぐのは大変だと思った。
「よーし、岸くん良い声でてきたね。次は厨房を案内するね」
また、通用口から事務所を抜けて厨房に入る。
途中でコックさんやウエイター、ウエイトレスに会うが、みんな支配人に良い笑顔を見せる。
支配人も人懐こい笑顔、そしてボディタッチ。
たぶん信頼されているんだろうな。
厨房から前を見ると、そこは紛れもなくレストランだった。
旅行帰りの家族やカップルなどが、お洒落な空間にパッケージされていた。
急に別世界を見たような妙な気分だ。
ふと視線を感じると直美ちゃんがいた。
渡辺直美は部活の後輩。
もっともボクは2年の終わりで辞めちゃったけどね。
「あれ~岸先輩どうしたんですか」
「今日からバイトすることになったんだ。よろしくね」
「何時からですか?」
「5時から9時だよ」
「あ~同じシフトですね、よろしくお願いします」
「うん、よろしくです」
一通り皆に紹介してもらったあと、支配人は後事を店長の福島さんに任せて退出した。