「いらっしゃいませ」
直美ちゃんの声に振り向くと、外からお客さんが二人入ってきた。
ボクはテーブルをダスターで拭きながら、意識をレジのほうに向けている。
ほどなく会計を済ませたお客さんがこちらにやってくる。
その後ろから直美ちゃんのサイン。
顔の近くに両手を持ってきて割りばしを割るしぐさのあとに、指2本。
OK、割りばし2本だね。
ボクは水2杯と割りばしを持ってお客さんのもとへ行く。
店内のBGMは大滝詠一の『ロングバケーション』。
ナイアガラサウンドがゆったりと流れている。
ここは、北関東の高速道路にあるサービスエリアのレストラン。
ボクは今月からここでバイトしている。
1980年代中頃の高校3年、冬の出来事。
あの鬱々とした夏が終わり、だんだん涼しくなるにつれて体調が楽になってきた。
ボクは本来夏が好きだが、このときばかりはピリッとした寒さを体が欲していたように思う。
就職も決まったしアルバイトをしようと、近所のレストランの面接を受けた。
小学校のときの同級生が何人か働いているので誘われたのだ。
高速道路のサービスエリアには、裏から入れる従業員通用口がある。
通用口の前はとても乱雑だ。
捨てるか捨てないか分からない微妙な状態の椅子やテーブル。
換気扇からは厨房からの脂ぎった臭いが漂ってくる。
換気口から風が盛大に吹きだしている。
通用口を入ると中の通路も乱雑だ。
どこからともなく洗剤の臭いがするし、ダンボールが所狭しと積んである。
前からコックさんが歩いてきた。
白くて長い帽子をかぶっているからコックさんだろう。
「すいません、事務所はどこですか?」
「ああ、そこのドアね」
コックさんは足早に歩いていった。
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つづきは小説投稿サイト「エブリスタ」にて。
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