ある日、若手のプランナーと。 | ヨコオタロウの日記
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あなたが現状を変えられる唯一の人間だ。
あなたの夢が何であれ、それを追いなさい。

/ アーヴィン・(マジック)・ジョンソン



ひさびさにゲーム作りの話でも書いてみる。



若いプランナーさんに「ゲームの企画書を書いてみてよ」という話をしたら、「良いアイデアが思いつきません」という回答。以下、そのやりとり。

ヨコオ(以下ヨ)「アイデアが思いつかないってどういう事?」
若手A(以下A)「いえ、だから面白いアイデアが思いつかないんです。」
ヨ 「面白いアイデアって何?」
A 「みんなが面白いと思ってくれるものです」
ヨ 「みんなが面白いと思うものが判らないの?」
A 「はい」
ヨ 「じゃあ自分が面白いと思うものは判るの?」
A 「はあ、まあそれは」
ヨ 「どういうモノが面白いの?」
A 「パズルとかですかね」
ヨ 「パズル作りたいの?」
A 「いいえ」
ヨ 「じゃあダメだね」
A 「はい」
ヨ 「他に面白いと思うものは無いの?」
A 「ゲームでですか?」
ヨ 「いやゲームじゃなくていいよ」
A 「ゲームじゃなかったら……カンフーをやっているのが楽しいですね」
ヨ 「じゃあ、カンフーのゲームを作ればいいじゃん」
A 「でもカンフーのゲームは作りたくないんです」
ヨ 「ふーん。じゃあ、カンフーの何が楽しいの?」
A 「体を動かすところですかね」
ヨ 「体を動かすところ?」
A 「はい」
ヨ 「じゃあ、壁に向かってグルグル腕を振り回してればいいんじゃない?」
A 「いえ、それはちょっと」
ヨ 「グルグル腕とカンフーって何が違うの?」
A 「カンフーには上達する面白さがあるんです」
ヨ 「上達する事が面白いの?」
A 「面白いです」
ヨ 「じゃあ、『カンフー』と『上達する事』を切り離して後者だけをアイデアにしたら?」
A 「どういう事ですか?」
ヨ 「だって、『上達する事』を自分が楽しいと思うんでしょ?」
A 「はい」
ヨ 「だったら、他の人にも楽しいと思って貰える可能性があるんじゃない?」
A 「はあ」
ヨ 「他にはカンフーの良いところは無いの?『強くなれたオレ』とか『中国カッコイイ』とか」
A 「そういう部分もありますね」
ヨ 「じゃあ、そういう部分の魅力を最大化すればいいんじゃね?」
A 「はあ」
ヨ 「格ゲーはパンチなんてボタン一発だし、非現実的な技が出るけど、それより地味なカンフーを面白いと思うんでしょ?」
A 「はい」
ヨ 「じゃあ、それはそこにナニか別の面白さがあるんじゃない?」
A 「そうですね」
ヨ 「そしたらそれを、解析して分解して再構築すればアイデアになるんじゃない?」
A 「はあ」
ヨ 「例えば、死ぬほど複雑な操作系で、パンチ一発打つのに丸一日練習が必要な格闘ゲームとか」
A 「はあ。でもあんまりピンと来ません」
ヨ 「そりゃそうだろ。僕はカンフーの魅力なんか知らないんだから。キミが考えるんだよ」
A 「なるほど。でもヨコオさんみたいに考えるのが速くないんです」
ヨ 「これは、単にオウム返ししてるだけだよ」
A 「言われてみればそうかもですね」
ヨ 「どうせ自分が面白いと思ってるもの以外は提案の役には立たないんだから、『アイデアが思いつかない』という前に自分自身にもっと深く聞いてみてください」
A 「はあ」
※判りやすくするために内容はアレンジされています。

……と言ってみたものの、上手く伝えられなかったような気がする。
昔みたいに方法論もクソも無くてムチャクチャだった時代の人間と、成熟した後に入社した世代とではアイデア発想法ひとつ取り出しても要求されている内容が違うだろうし。
難しいな。こうやって老害化していくんかな。

てか、こんな若い人も「面白さ」=「良いアイデア」という公式なんだなあ。
若いんだから、もっと自由にムチャクチャすればいいのに。←これも押しつけか。



本当に、アイデアが出ないんだったら「発想法」とか「アイデア発想法」で検索すれば死ぬほど出てくる。
たとえばまあ、

 発想技法の活用
 http://www.h2.dion.ne.jp/~ppnet/prod08.htm

 7つのアイディア発想方法
 http://www.ocl.co.jp/report/kigyo_sogyo02.htm

みたいな。
でも本当に大事なのはアイデアそのものなんじゃなくて、それを受容する自分と相手の感情。だから、その部分の解析を怠るとなんだか訳わかんないモノが出てくる気がする。
例えば上の発想法でアイデアを生み出すよりも、

 「方法論を並べておくだけで、安心する」
 「役に立ちそうなアイデアは、ブックマークしたくなる」
 「知識を披露する事には、快楽がある」

なんていう送り手と受け手の情動を取り出す事が出来たら、ゲーム制作にも流用出来そうなんだけれど。