シーンとした相談室で一人、Y大学病院の担当の
お一人の先生と最後の意思確認という意味合いで
話し合いをしました。
もうこの時点ではこれ以上悪化したら補助人工
心臓を装着するしか途はないということをT大の
先生から曖昧に告げられていました。
(先生は私達に気を使ってくれていたのだと思います)
実際にはこの電話で息子の今の状態で搬送されてか
ら想定されるリスクなどの詳しい内容を聞くことになり
ました。
先生はご自分達チームの治療法に自信を持っている
こと力説され、息子を全力で治療し、救いたいという
前提で熱く、丁寧に以下のことを話されました。
重篤な心不全のため、ヘリで搬送中に気圧の変化
でさらに悪化してしまう可能性があること。
無事着いてからも血圧が不安定になりがちになること。
免疫吸着療法を行っている時にも血圧が不安定
になることが考えられ、本人が耐えられるか定か
ではないこと。
Y大学病院側で他の患者さんの対応に追われ
受け入れ体制がまだ十分ではないこと。
(理想は1週間時間が欲しいと言われました)
搬送の前に本当ならば私達両親と会ってじっくり
話しがしたいということ。
T大病院の先生から由宇人くんのデータを
確認しましたが、かなり衰弱しているので体力的
に持つかということ。
この他にも治験実績についてなどいろいろなこと
をお話しいただきました。
息子の今の状態でヘリで行くことは
一度は決断したがとんでもない危険な賭けになる
であろう・・・。
話を聞いている途中で胸騒ぎがしました。
そして最後に先生は少し口調を強めて決定的な
一言を話されました。
「万が一、由宇人くんが危険な状態に陥っても
うちには補助人工心臓のバックアップがありま
せんので1週間程度延命する処置が最大限
できることとなります。もし、悪くなったらそこで
治療は終了となります・・・。」
なぜか映画のワンシーンのようにそうなった
息子の映像イメージが頭の中に見えました。
これはマズイな・・・。まるで我に返ったような
感覚でした。次の瞬間、「先生ご丁寧なご説
明をありがとうございました。息子を救いたい
熱意や治療法はよく理解しました。しかし
同時にリスクも非常に大きいこともわかり
ました。まことに申し訳ありませんがそこま
での危険を冒して息子をそちらに搬送する
ことはできません。転院の件はキャンセルさせ
てください。」と申し入れていました。
Y大の先生も安堵したようなトーンで「賢明
な判断だと思います」と受け入れてくれました。
電話を切ってからT大の担当の先生に転院
をキャンセルしたことを伝え謝罪しました。
「わがままを言って転院のためにいろいろと
ご尽力を尽くしていただいたのにも関わらず、
バックアップがないという事実に恐怖し、
このような決断をしましたことをお詫びいたし
ます。由宇人と共にこちらで最後までお世話に
なる覚悟を決めましたのでどうぞよろしくお願い
します!」と。そしてこう聞きました。
「先生のお子さんがもし、由宇人と同じ状況
だったら移植と搬送どちらを選択しますか?」
もう半年も毎日顔を合わせている先生は
なんとも言えない一人の親の顔つきで
言いました。「私なら移植を選びます・・・。」
「そうですか。それじゃ私の決断は間違って
いませんね。」笑いながらそう答えました。
妻にもY大行きをキャンセルした経緯を話し、
理解してもらいました。
しばらくすると先生が血相を変えて部屋へ飛んで
来て早口で言いました。
「お父さん、お母さん、由宇人君が肺うっけつ
を起こし危険な状態です。これ以上このままの
治療を継続するわけにはいきませんので
LVADを装着する手術を早急に行います。
心臓外科の先生と移植コーディネーターより
説明がありますのでこちらへ!」
えっ!何?これから?さっきY大キャンセル
したばっかじゃん。そんなに危険なの?など
一気にいろんな疑問が湧いてきましたがそれを
整理する時間はないまま心外の先生による
補助人工心臓(LVAD)装着手術の説明を聞く
ことになりました・・・。
ここから偶然なのか運命なのかいろいろなことが
動きだしていくことになるのです。