『エリザベート』の登場人物には貴族が多いので、みんな爵位を持っている。ヨーロッパの爵位は、日本の爵位の様に、家柄に対する格付けではなく、治める地域に対して与えられるものだそうで、イコール上下関係とはならなそうだが、それでも財力勢力の指標にはなりそうだ。
エリザベートのお父さんであるマックスは、皇室の親戚なので、これはさすがに特別で『公爵』。次いで大金持ちなのは、我らが永遠のライバル、シュヴァルツェンベルク『侯爵』。こちら側のトップは、そこから一つ差を付けられて、グリュンネ『伯爵』。重臣として名を連ねるものの、諜報部の二人は、一番下の『男爵』だ。侯爵から見れば、貧乏人二人が、子犬の様に足元にじゃれついている、位にしか思っていないかもしれない。
結婚式のシーンは貴族だらけで、注目すべきは(川口)ダイチ君が演じる貴族で、台本に『若い侯爵』と表記がある。背の高いイケメンで、『若い』『侯爵』ともなれば、世の女性が放っておくはずがない。水面下では、女同士の激しい争奪戦が繰り広げられている……かも知れない。
ちなみに、ケンペン男爵は既婚者のつもりでいるが、ワルツのシーンでは、男性には厳しい割に、女性には愛想が良く笑顔を振りまいている。フェミニストなのか、ただの女好きなのか、どっちだ。
さらに、相方のヒューブナー男爵かどうしているかはよく知らないが、ワルツ後再登場するシーンでは、エリザベートのお姉さん、ヘレナに粉かけているのは知っている。口説こうとしているのか、取り入ろうとしているのかは分からないが、一方でケンペン男爵が、お母さんのルドヴィカにダンスを申し込みに行ってるのと併せて考えると、そこには既に駆け引きがありそうで、ちょっと面白い。
さて、宮廷でこれ程我が物顔にしている男爵ズだが、二人がずっと男爵なのは、実は諜報部がいかに絶大な権力を持つかという裏返しではないかと思っている。
国外の情報だけではなく、国内の要人のあらゆるスキャンダルを握っている諜報部のトップが、広い領地と莫大な財力をもつことは、二心を抱かせる要因になりかねない。
数十年間、ヨボヨボになるまで権力の座を保持した二人だが、爵位は今際の際まで男爵だったのではなかろうか。