禁煙原理主義 | 月かげの虹

禁煙原理主義




米国の映画俳優ハンフリー・ボガートは、たばこが実によく似合う男だった。

「カサブランカ」の酒場の経営者、「三つ数えろ」の私立探偵フィリップ・マーロウなど、役柄のせいもあるだろう。たばこは、ハードボイルドな雰囲気を醸し出すのに欠かせない小道具だった。

別に、喫煙を勧めているわけではない。そう断らなければならない時代なのだろうか。東大名誉教授で解剖学者の養老孟司さんと、劇作家で中央教育審議会会長でもある山崎正和さんによる対談「変な国・日本の禁煙原理主義」が「文芸春秋」10月号に掲載された。すると日本禁煙学会という団体が、2人に公開質問状を出した。

愛煙家の2人は対談で、たばこが害だとする科学的根拠への疑問を語っている。しかし、たばこを推奨しているわけではない。趣旨は、健康増進法制定など、官が健康至上主義を押しつける中で、たばこばかりが悪者になる風潮への警鐘、と読んだ。

でも気になる人には気になるのがたばこだ。禁煙学会の質問状は「肺がんの原因が喫煙でないという根拠」など6項目。山崎さんが冗談として言った大胆な発言に、「中教審会長のお言葉とも思えない」とも。高名な二人の知識人がさてどう出るか。

あとは論争に譲るとして、最近の映画では「コンスタンティン」でキアヌ・リーブスが、やたらとたばこを吸いまくる悪魔払いの男を演じた。だがそのために肺がんで余命一年という設定で、禁煙を勧める映画にも見える。銀幕の中の時代も変わった。