一夜城

織田信長の家臣だった豊臣秀吉が大出世の足がかりをつかんだ伝説に、墨俣(すのまた)一夜城がある。長良川の岸に一夜にして城を築き、美濃の斎藤氏攻略の拠点にしたという。
だが史実とは違うようで、辞書などには同じ一夜城でも、小田原城攻めに造った石垣山の城が出ている。実際には約80日かけて築城したが、完成と同時に小田原側の立木を一気に切り倒し、あたかも一夜で完成したように見せかけた。
石垣は本物だったが、やぐらや塀は骨組みを紙で覆っただけという話もある。真偽はともかく、山頂にこつぜんと現れた城を見た小田原の北条勢は、さぞや度肝を抜かれたであろう。一夜城には、相手の戦意を奪う効果がある。
現代の一夜城が現れたのが福田さん、麻生さんの一騎打ちとなった自民党総裁選。福田さんが出馬に意欲を示すやいなや、それこそ一夜にして城主に迎え入れる城ができた。材料は派閥という、いささか古ぼけた板。九枚の板のうち八枚もが集まり、福田さんは余裕たっぷりに入城した。
早々に戦意を失い白旗を揚げた人もいた。一枚板で残った麻生さんは「芝居の幕が上がったら終わっていたという話では、いかがなものか」。気持ちは分からぬでもないが、この芝居はただの芝居ではない。国民の生活がかかっている。
お二人には、大いに語ってもらわねば困る。政策を真剣に論じ合うことで二人の違いも見えてくる。国民が聞きたいことは山ほどある。突然城を明け渡して入院した前城主との違いもお忘れなく。