昭和切手への郷愁 | 月かげの虹

昭和切手への郷愁


昭和30年代に少年・少女時代を過こした人には、切手少年・少女を経験した人も多いと思う。

かくいう私も、小学校の4、5年にはその魅力に取り付かれ、僅かな小遣いもすべてつぎ込み、収集仲間の友達と重品の交換や少し珍しい切手を入手すると「見せびらかし作業」に精をだしたものだ。

その後は熱も冷め、集めた日本や外国の切手は、はっきり記憶はないが、そのほとんどは散逸してしまった。

その後は特に関心を持つこともなかったが、ふとしたことから平成5年頃、郵便雑誌で切手趣味週間の「見返り美人」と「月に雁」の一記事を見かけた。そして昭和レトロヘの郷愁も重なり、子どもの頃の「貪欲な収集心」が蘇ってきた。

この2つの切手は憧れの切手で、当時でも1枚2千円以上する高値の花だった。ましてや、用の小遣い百円の我が身では、とても手の出るしろものではなかったし、当時の集友でもめったに持っている人はいなかった。

このことがきっかけとなり、手元にあった多少の日本切手をべースに収集再開となった。

初めの頃はゼネラル(特にテーマを決めずに幅広く集める)でアルバムを整理をした。

一息ついた現在では、戦前の日本の占領地切手や絶滅が危倶される世界の野生動物など、自分自身が興味を持っているものを、どちらかと言えばトピカル風(テーマを決めて集める)に、主として、切手商やインターネットを通じて入手を楽しんでいる。

県庁在職当時、日本カワウソの保護調査に携わったことから、愛嬌のある顔をした「力ワウソ」には好意を寄せていたが、東京で歯科医をしている集友からは、世界中のカワウソ切手やカバー(初日カバーや実逓便の封筒)を少なからず分けて頂いた。

勿論、一番先に入手したのは「見返り美人」と「月に雁」であったことは言うまでもない。

切手収集を再開して10数年、ご自身も骨董に関心の深い作家の車谷長吉氏の

「蒐集ごとは、所持金をいくらつぎ込んでも、満足できるということはなく、寧ろもっと欲しいという飢餓感にさいなまれる」

「蒐集ごとは、自分の所有したものを他人にみせびらかした<なるという悪癖を伴⊃ている」(日経新聞文化欄)

という言葉を座右の銘とし、無理をせずに楽しめるストイックな収集活動をもっぱらとしている。

切手は小さい美術品とも言われ、デザインやデッサンは魅力的なものも多い。欧米では貴族の趣味とも言われ、アメリカのルーズベルト大統領が切手を楽しんでいる様がモナコの切手になるなど、著名人のフィラテリスト(切手収集家)も多い。

日本の新規切手発行種類数は1999年を境に急増し、記念切手・ふるさと切手等、世界的に見ても乱造・乱発の上位にあり、収集家の間では、日本の切手は集める価値がないという声も出始めていると聞くが、収集家の一人としては寂しい気もする。

ただ最近の新しい現象として、写真付き切手やメルヘンチックなものなど、自分の感性に合う切手などを収集、また生活の中でそれを生かす若い女性収集家も増えていると聞く。

近年、世界的にも、様々なデザイン、素材も布や金属、またバラの香りやチョコしートの匂いのする切手など様々な切手が発行されている。

生活の中で、自分に合った予算で自分流の切手の楽しみ方を見つけることにこそ、切手収集の意義があるのではないでしょうか。(本文一部省略)

特別寄稿『昭和切手への郷愁』
起塚昌明
(団体役員/高知市)

季刊高知 No.21
2006 Summer
¥380