はり1000本 | 月かげの虹

はり1000本


体内の毒素を出すデトックス、免疫力を高めるヨガや気功など、美容と健康のための東洋医学が人気らしい。

そんな中、女性誌で鍼灸ダイエットや美容鍼が取り上げられるなど、鐵灸への関心の高まりも、日々感じている。

しかし、実際に鍼灸を受けるとなると、不安と恐怖が先だって尻込みしてしまう人が多いらしい。確かに、たまの注射もできれば避けたいと思うのが人情だ。体に何本も鍼を刺すことに、抵抗感を抱かない人のほうが少なくて当然だろう。

それでも私は一人でも多くの人に鍼灸をお勧めしたい。鍼灸を生活の一部に組み込んでほしいと願っているのだ。

腰が痛い、肩が凝る、胃がもたれるという症状に現れていなくても、なんとなく気分がすぐれない、慢性的に疲れが抜けない、何時間寝ても寝不足など、どこが悪いというわけではないが、体調がよくないという人は多いと思う。

雑誌やインターネットには、名鍼灸師が数多く紹介されているが、遠くの名人のところに、新幹線や飛行機を使ってまで通う必要はない。治療のために無理をすることほど、むなしいことはない。

私がお勧めしたいのは、自分の生活圏内にある鍼灸師を見つけること。主治医を持つのと同じように、自宅の近所に主治鍼灸師を持ってほしいのだ。

ぜひ勇気を出して、鍼灸院に飛び込んでほしい。最初は直感で選んでもよいし、何軒か、はしごをしてもよいと思う。

鍼灸師の人柄、相性、治療院の明るさ、清潔さなど、自分の感性に従い、「見た目」で判断してもよい。話を聞いてくれるか、痛い時には「痛い」と声を出せる雰囲気か、も重要だ。

また、鍼灸師の手が温かく感じられることも、実は大事だ。一回の治療で判断できるものではないが、必ず自分にあった鍼灸師がいるはずだ。

鍼灸師が見つかったら、どう生活のリズムに鍼灸を組み込むか考えてほしい。鍼灸は、性別、年齢、治療を受ける時間帯によって、効き方が違ってくる。朝、昼、夕方と、何度か変えて治療を受け、自分にあった時間を見つけることが大切だ。

そして、なにより大事なのは、続けること。鍼灸は、劇的に効く場合と、徐々に効く場合がある。たとえばぎっくり腰では、一回の治療でぴたりと痛みが治まることがある。しかし、これは痛みがとれただけで、根本的に治ったわけではない。鐵灸は、魔法ではないのだ。

鍼灸は自然治癒力を高めることにより、身体を甦らせるのだが、それだけではないようだ。鍼灸によって身体だけでなく、心までが甦るのか、人生を力強く切り開いていく患者を、私は何人も見てきた。

一人でも多くの人に、鍼灸を受けてほしいと願う理由の一つは、そこにもある。


竹村文近「主治鍼灸師のすすめ」
(たけむら・ふみちか 鍼灸師)
『はり100本 鍼灸で甦る身体』
新潮新書

波 6月号
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