子どもの交際事情
4月に起きた岐阜県中津川市の中2少女殺害事件は、逮捕された高1少年の犯行動機として、交際上のトラブルの可能性が挙がっている。
「保健室はなぜ居心地がいいのか」の著者で中学校養護教諭の金子由美子さんに、この年ごろの男女交際の現状について語ってもらった。
消える境界
中学校でも男女交際の指導がとても難しくなっています。交際の低年齢化が進んで、校内で手をつないだり抱き合ったり、それを誇らしげに振る舞うカップルもいます。
家庭も交際や恋愛を公認しているようなところがあります。わが子の彼氏や彼女を一緒に娯楽施設へ連れて行く保護者もいるなど、家族ぐるみで交際を応援しているようなところもあって、一律に禁止、抑圧するのは難しい。
生徒たちと接していて思うのは、恋愛の実態について、大人と子どもの間で境界がなくなってきているということです。
日本では明治以降、恋愛という観念が生まれたとされていますが、かつては今でいう思春期世代の恋を社会的に規制する力が働いていました。
しかし、今では元カレ、元カノという言葉が子どもの間で飛び交い、教師が男女2人でいる様子を子どもたちが見て「浮気」「不倫」などと学校の中でも日常的に口にします。性行動も早熟化し、小学校でキスをしたと自慢する子もいます。
思いが憎しみへ
交際上のトラブルがあったとき、大人なら「女なんて……」「男なんて……」と愚痴をこぼせば慰めてくれる仲間もいるでしょう。旅行やアルコールの力を借りて発散し、事を大きくせずに済ませることもできる。しかし精神的に幼いと、相手への思いが憎しみに変わりかねません。
思春期の自己顕示欲を満たす場として、勉強やスポーツ、ファッションがありますが、カップルになることもそれに含まれてきています。
特に自己肯定感が低い子にその傾向が強い。そうした子は、勉強やスポーツよりもカップルになることの方が、手っ取り早く自分を目立たせることができるんです。
携帯メールを使えば、交友関係が広がり、写メールで気に入ればすぐに交際が始められます。しかし、カップルになった子たちにとって、ふられることは挫折感につながってしまう。
カップルになるのが手っ取り早い自己実現の手段という価値観を共有しているグループの中では、大きな屈辱になりかねないでしょう。
「依存症」
カップルになった子どもを見ていて思うのは、互いの距離の取り方が分かっていないということ。失敗したら危ないと思う子が結構います。トラブルのない恋愛はありえないと思いますが、トラウマや深刻な人間不信などの "後遺症" が出るような危うさも感じます。
「性的にも親しいカップルであることがかっこいい」というような男女関係を描くテレビドラマなど、マスメディアの影響も大きいと思います。
依存する対象がパートナーという状況が大人の恋愛を病的なものにする。自己肯定感の低い子も、大人のように「恋愛依存症」に陥ってもおかしくない社会環境になっているような気がします。
恋愛にはトラブルがつきものなので助言が必要な場面が必ずある、と親も教師も考えた方がいい。人生の先輩として、失敗も含めた自らの体験を話せるようであってほしい。
ただ、助言は互いの信頼関係があって初めて有効です。各地に行政を含め思春期の性に関する相談先があるので、連絡を取ってみたらどうでしょうか。
金子由美子「危うい子どもの交際事情」
恋愛が自己実現の手段
信頼関係持ち助言を
かねこ・ゆみこ
1956年名古屋市生まれ。
エイズ予防啓発のボランティア団体「川口子どもネットワーク」世話人代表。
埼玉県の公立中学校で養護教諭を務める。
2006年6月4日付け高知新聞
教育特集
金子由美子さんに聞く